中国の長距離列車でエリート高校生と黒髪女教師と仲良くなった話



中国寝台列車の旅の第3話。

沈没していた上海で怒涛の切符争奪戦を勝ち抜き、抗日ドラマが蔓延する車内で「ケン」と名乗るアニヲタの少年に出会ったところまで書いた。今日もその続き。

なお、これは約7年前の記憶なので、最近の中国鉄道事情の参考にはしないでね。

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僕のカオスな3等寝台車からケン君の2等寝台車に移動したら、わりかし喋れるくらいには静かになった。でも僕らがそうしたように、乗客はほとんどの車両を行き来できる。とくにトイレが一部の車両にしかないため、五月蝿いオッサンどもが絶えず僕らの座る席の横を通る。

そんな1人のオッサンが、ケン君のすぐ脇に痰を吐いた。

これが中国人の意味不明なところで、屋内だろうがカーペットが敷いてある電車内であろうと、所構わず痰を吐く。この悪癖を止めるだけでかなり印象が良くなるのに…。

オッサンの背中にガン飛ばすケン君。とは言えこの国では大部分のオッサンが痰を吐くので、不快だけどいちいち文句を言っていたらきりがない。

「あれは民工」

ここからのケン君の説明で、僕が中国で抱いた疑問の半分以上が解決した。



産まれた場所で人生が決まる中国

民工とは農民工の略で、地方から都市に出稼ぎに来た人たちだ。その数なんと2億人以上。

シンガポールに出稼ぎに行くマレーシア人、アメリカに出稼ぎに行くメキシコ人。経済的に貧しい国から近隣の裕福な国へ、国境を跨いで仕事に行くことは世界的によくある。シンガポールの建設現場で働いている、浅黒い肌で丸刈りの中国人もそうだ。

中国はこの構造が丸ごと国内に存在している。

でも思えば「三丁目の夕日」も、東北の田舎から東京に出稼ぎに来た女性を巡る物語だ。経済成長期には都市と地方で大きな経済格差が産まれ、何処の国でも同じ状況になるのかもしれない。

ただ中国の場合、産まれた場所によって戸籍の種類が違うというもっと複雑な事情がある。

農村戸籍に産まれた人は、都市で何年出稼ぎしても都市住民になることは出来ない。都市で子供が産まれても、農村戸籍の子は農村戸籍になり、都市で学校に通うのすら不利になるという。

これは出生地による差別と言えるだろう。戸籍の種別によって圧倒的な経済格差と教育格差が生まれ、つまり中国社会には大きく2種類の中国人がいることになる。僕の知る都会的な上海の人は都市住民であり、切符売り場で割り込んでくるマナーの悪い人たちは地方からの出稼ぎ労働者だったんだ。

彼らは故郷に帰る切符を必死に買い求めていたんだな。

EXILEは民工団

ぜんぜん知らなかった。これを中国人から説明してもらったことは、僕にとって貴重な体験だった。

それにしてもケン君は何者だ。まだ高校1年生という。自国の暗部とも言える事情を、漢字の筆談と英語で外国人に的確に説明できる高校1年生がそんなにいるだろうか。

知り合いが多くいるわけじゃないけど、日本で言えば国立高校の学生みたいなエリート感がある。自分の目に映る一次情報だけじゃなく、ニュースや文献も参考にして意思決定する冷静さ。ネットの情報が規制されている中国で、そんな「外の目」を持てるのは尊敬に値する。

「日本のEXILEいる。あれ民工団と呼ばれ人気ない」

おお、なるほど(=^・・^=)!色黒・細身・ちょいワルというエグザイルの特徴は、そのまま出稼ぎ労働者民工のソレらしい。だから中国女子ウケする男性像ではないし、都市住民男性からも見下されるという。根深い…。

それでケン君のスマホで芸能人を画像検索し、中国女子にモテるのはどんなタイプかとか、中国の芸能人で美人どころはどんな顔かいう下世話なお題で盛り上がった。

このころ、僕らの会話はほとんど英語に落ち着いていた。難しい単語は漢字で筆談。僕の中国語も、ケン君の日本語も、複雑な会話には不十分だったというわけ。

メソメソ…。

タマちゃん

すると背後に視線を感じた。振り返るとそこには黒髪の乙女(=^・・^=)!彼女がケン君に中国語で話しかける。

「彼女が混ざっていいか言っている」

黒髪の乙女(=^・・^=)!良いに決まってるじゃないか(=^・・^=)!

色白細身でロングの黒髪。中国東北地方っぽい外見だけど、南京の郊外出身。去年地元の大学を出て、南寧の中学校で国語の先生をしているという。今は季節外れの里帰りを終え、南寧に戻る帰り道。

南寧!僕も!僕も南寧に行くんだよ!

ところが黒髪ちゃんは英語が微妙に通じない。いや、僕の英語だって微妙なんだけど、やっぱり平然と英語に切り替えるケン君が飛び抜けて優秀なんだな。

黒髪ちゃんはコツコツ英語を勉強してきたものの、使う機会がなく困っていたらしい。それで僕らが英語で喋っているのを見て興味を持ったと。

「英語も微妙だけど中国語もめっちゃ訛ってて、それで国語(中国語)の先生とかウケるw」

ケン君は優秀なのに、どうも女子慣れしていない感がある。

雰囲気を悪くするなや。幸い、黒髪ちゃんはケン君の英語を聞き取れなかったらしく、事なきを得た。それでケン君が日本語名で名乗っているのを知って、黒髪ちゃんも日本語名がほしいと言い出した。

「抗日ドラマ→日本の植民地→創氏改名→気まずい」という連想が走ったけど、とりあえず雰囲気を変えたい。本人が日本語名がほしいって言ってるんだから倫理的に問題ないんだろう。

ところでなんでケン君は「ケン」にしたんだい?

「本名が【顕】の文字を使う」

なるほど(=^・・^=)!それなら黒髪ちゃんの本名には【玉】が入っているから「タマちゃん」でどうよ?昔むかしにヒステリックブルーっていう一発屋バンドがあってだね…。

爆笑するケン君。憤慨する黒髪ちゃん。

ヤバい。これはヤバいぞ。確実に地雷を踏んだ(=^・・^;=)

ケン君の説明によると「他妈的(タマダ)」でクソ野郎的な意味になるらしい。ヤバい。そんなの教科書に載ってねーし!!

ところがケン君が「タマちゃん」を痛く気に入ってしまい「タマちゃん!タマちゃん!」と大騒ぎを始めた。おい秀才!美人は丁寧に扱えw せっかくのクールなキャラが崩壊しているぞ。

そんな感じで民工のオッサンたちより僕らの方がよっぽど騒がしくなってしまった。逆にこういうとき怒られないのは中国良いかもしれないな笑

不安だった寝台車の夜は、2人の愉快な仲間たちのお陰で楽しく更けていった。

しつこいけど中国編は明日も続きます!