シンガポール人気質「キアス」

日本でいう「本音と建前」みたいな国民性をあらわす言葉がシンガポールにもある。それが「キアス」。福建語由来の言葉らしく漢字で書くと驚輸、英語だとKIASUで、Wikipediaにも項目がある。「負け組に堕ちる恐怖心」と解説されるキアスだけど、僕の感覚だとこんな感じ。

  • まわりを出し抜いて勝ちたい
  • まわりを出し抜いて得したい
  • まわりを出し抜いて自慢したい

こっちに住み始めた当初からキアスという言葉を聞く機会は何度かあった。シンガポールの友人が自虐的に使うこともあるし、何より移住2年目に有名なハローキティ事件が勃発。マクドナルドのオマケとして貰える限定キティちゃんに人が殺到したのだ。あまりに競争率が高くなったため、レアな骸骨キティを求めて白熱した一部の人たちが喧嘩などトラブルを起こしてしまった。

http://www.huffingtonpost.jp/taviicom/singaporean-kiasu_b_6321644.html

その後も定期的にキティイベントがあり、毎度異様な行列ができる。とはいえ、コミケや初詣で徹夜組が出る日本で育った僕としては親近感を覚えるレベル。行列で喧嘩はもちろん良くないけど「文化が貧相」などと言われてしまうシンガポールにおいて、ここまで国民性が際立つ出来事をむしろ新鮮に感じていた。

http://nameless.life/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%A7%E4%BB%8A%E3%81%A0%E3%81%91%E9%99%90%E5%AE%9A%E3%82%AD%E3%83%86%E3%82%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%EF%BC%81/

海外旅行の行き先まで他人を意識する

そんな感じで「キアス」を面白い文化だなくらいに思っていた僕が、初めて疑問を感じたのは2年前のことだ。当時、毎週遊びに出かける仲のシンガポール女子がいた。で、彼女がバンコクへ2人で旅行に行きたいという。これはいわゆるオッケーサインってヤツか!?などとテンションを上げたものの、詳しく話を聞くといろいろおかしい。

なんでバンコクなの?
シンガポール女子
友達がバンコクに旅行に行ったから

僕だって友達が持ってるゲームボーイが欲しくてしょうがない小学生だった。でも旅行の動機が友達が行ったからってどうなのよ…。

前にタイ行ったことあるって言ってたじゃん?エアアジアがバリ島のセールしてるよ
シンガポール女子
LCCじゃなくてシンガポール航空でいくの。高級ホテルとセットのリゾートプランがあるのよ
バンコクでリゾート?それならマジでバリ島とか、せめてプーケットなんじゃ…
シンガポール女子
友達はバンコクにリゾートしにいったわよ。彼女よりもっと良い飛行機でもっと良いホテルに泊まるの!
アッチョンブリケ!

その後、旅行の計画を立ててるうちに判明したのは、彼女の中にあるのは「友達に勝ちたい」気持ちだけで、具体的にバンコクに興味が無いということだった。しかも辛い料理が嫌いという。

これが僕にとって最初のキアスの洗礼。

行列は真剣勝負

シンガポールで行列に並ぶのは、前述のキティ事件のように「勝って得して自慢する」という自尊心に関わる真剣勝負なのだ。

とあるラーメン屋さんが新装開店セールで時間限定で無料ラーメンイベントを打った。「限定無料」というわかりやすすぎるシンガポール人ホイホイである。僕もまんまとホイホイされて、秘技割り込みの洗礼を受けた。

ラーメン屋の前には長蛇の列。僕は日本人の友達と並んでいた。店が人通りの多い道に面しているので、行列が往来の邪魔になっていた。そこで前の人と1mくらい間隔をあけて、通行人が行列を通過しやすく気を利かせたつもりだった。

そこに堂々と割り込んできたババアふたり。あり得ないくらいさり気なく、今までずっといましたが?という顔だ。すかさず文句をいうと「今から後ろに並んだんじゃ無料の時間が終わっちゃう!」と言い返して来やがった。文明人としてあり得ない。幸い、僕の前にいたグループが中国語で加勢してくれて、ババアは諦めて去っていった。

シンガポールに移住する前に中国で沈没していたんだけど、上海みたいな近代化した大都市でも割り込みは日常茶飯事だった。しかも、割り込んだ奴よりも、スキを与えて割り込みを許してしまった方が非難されるという。。。だから行列はとてもギスギスした雰囲気になってしまう。

こんな途上国メンタリティが抜けないシンガポール人がまだまだ一定数いることがわかった事件だった。

キアスがシンガポールのイメージを落している

他にも、デリカシー無くズケズケと給料や家賃をきいてくるシンガポール人もキアス。勝手に自分の給料や家賃と比べてドヤ顔したいのだ。僕はシンガポール人から金額を質問されたら勝負を挑まれていると感じて不快になる。

shishimong.com/2017/06/24/post-807/

例えば、今年はいつ日本に帰るのかと聞かれる。7月だと答えると、次は飛行機の値段をきかれて「俺が旅行で行った時はそれより100ドル安かった」などと、さも勝ち誇ったように言うのだ。だから?で?って感じ。本当にくだらない会話だ。

もちろん、この世を生き抜くために他人を押しのけてでも成功を勝ち取る必要はある。受験や出世とかね。だけど、何でもかんでも金銭的価値だけに注目して他と比べたがるのは、その人が虚しいだけでなく社会悪だ。

昨今、シンガポールのレストランは劣化の一途を辿っている。これはお得感とInstagramで自慢することだけに重きを置いて、味やサービスを蔑ろにした結果だ。

シンガポールの接客は褒めて育てようと思った話

食事の満足は本来、味とサービスから得られるものだ。だけど客がキアスな価値観だと、レストラン側もインスタ映えする内装や、料理をいかに安く出すかを努力するようになる。そんな風にお得感と見栄えだけを考えた結果、写真に写らない味や接客がスカスカでボロボロになる。

キアスがシンガポールのイメージを落しているわかりやすい例だ。

外国人にキアスを指摘されるとムスッとする

あまりにもわかりやすくキアスな言動をされると、思わず「それはキアスだな!」って指摘したくなる。が、最近はじっと我慢。

シンガポール人は外国人からキアスを指摘されるのが好きじゃないのだ。

でもまぁ、これは理解できる。僕だって日本で外国人から「建前はいいから本音で話して」とか言われたら、気を使ってオブラートに包んでやってるんだブス!と感じるだろう。

郷に入れば郷に従え。シンガポールに住むならキアスに慣れろってことだね。