先週はシンガポールの高級住宅街にそびえるコンドミニアムで優雅にテニスしてきた。バックパックを背負って僕がシンガポールに初めてたどり着いてから5年。その頃からの友人の邸宅だ。
この友人はパッと見ごく普通のシンガポール女子なんだけど、自分でコツコツ貯金したり一族郎党から少しずつ融資を募って、ヤルと決めたことは最短最速で実現してみせる。だから齢30にしてすでに起業したりコンドミニアム買ったりといろいろモーレツである。
ただそんな彼女にもちょっとした弱点がある。オトコを見る目がないのだ。どう考えてもお姫様扱いしてくれるちょっと気の弱そうな男子がお似合いなのに、どういうわけだか「だらしな系のオラオラ君」にハマる。そんでやっぱりコジれて別れるというのを僕と出会った頃から繰り返していた。
でも去年そんな彼女についに「お姫様扱いしてくれるちょっと気の弱そうな彼氏」が出来た。どうやら彼の方が一目惚れで、猛烈アタックに負けて付き合うことになったらしい。 端から見ていて相性よさげなので安心した。
シンガポールは手頃な住宅が足りない
そんで彼女の邸宅でテニスしたおりに「僕が去年いくら昇給したか」などとザ・シンガポール人な質問してきやがったので、お返しに「君らはそろそろ結婚を考えてないの?」とお節介オジさんな質問でやり返した。
すると「今は家を買えないから無理」とのこと。この意味を理解するにはシンガポールの結婚にまつわる住宅事情を説明する必要がある。
まず、建国以来慢性的に住宅難なので、シンガポールの若者は結婚するまで親元で暮らすのが一般的だ。彼女みたく20代の独身女性がコンドミニアムを買うというのは珍しいケース。さらに、こっちの不動産はまだ基礎工事も始まっていない建設計画段階で購入希望を出すのが一般的。その上、抽選である。どんだけ住宅難なんだ。
だからカップルが結婚を考え始めたら、取り急ぎ新居を購入する手続きをして、数年後に完工してから晴れて新婚生活が始まる感じ。当然その数年の間に関係がこじれて別れちゃうケースもままあり、彼氏側に空っぽの愛の巣と重いローンが残されるという悲惨な話もきく。
このリスクがあるので多くのカップルが結婚に踏み切れず、結果としてシンガポールの出生率が世界最低レベルなのではと僕は考えている。ただ、彼女はもうコンドミニアムを持っているのだから問題ないじゃん。
不動産が焦げ付いて結婚できない
状況はもっと複雑だった。
彼女のコンドミニアムはStudioタイプ、いわゆるワンルームマンションなのだ。だからいくらアツアツの新婚さんといえど、二人で住むには狭すぎる。
そしてシンガポールの不動産価格は2013年のピークから11%も下がっている。しかもコンドミニアムなど高級物件は今後も下落傾向が続く見通しだ。さらに悪いことに、彼女がコンドを買ったのがほぼこのピーク時。完全に高値掴みしたカタチだ。
だから今コンドを売って、二人で住む新居の購入資金に当てると大損だ。彼女が住んでいるコンドミニアムのStudioは、こっそり調べると8500万円もする。これが11%下落というと1000万円近く含み損。
この1000万円が自己資金なら「あらら~」で済む場合もあろう。でも彼女は資産家でもなんでもない。おそらく多額の住宅ローンがのしかかっている。賃貸価格も同じくらい下落していると考えると、コンドを人に貸しても住宅ローンの支払いをカバーできない。
完全に不動産が焦げ付いたパターン。借りたカネで損を出すと、これはもはや自分で住み続けて、不動産資産としては塩漬けにするしかない。
不動産に対するメンタリティが違う
そんなわけで新居が買えず、いい人がいるのに結婚できない彼女。1000万円の含み損とか、僕なら血尿出て死ぬレベルなのだけど、さすがのモーレツ彼女はあっけらかんとしている。
というのも彼女はこんな事態になっても「不動産は必ず値上がりするもの」という神話を信じて止まない。今後も下落傾向が続くという見通しが発表されると「じゃあいつ上昇に転じるのか」を考える。不動産に対するメンタリティが根本的に違う。
東京オリンピック特需で湾岸地区のタワマンを中国人が買い漁るという出来事があった。彼らもおそらくこんなメンタリティ。台湾や香港の中華系の人たちも同じ。リスクを積極的にとって貪欲に利益を出していく。血尿出ちゃう小心者の僕はとても真似出来ない。
中国経済の失速でシンガポールの景気はモロに影響を受けている。不動産価格の低迷を受け、外国人建設作業員を大幅に削減する計画も発表された。
彼女がいつになったら結婚できるのか心配だ。