コンデジなのに夜に強いGR2を買ってからというもの、雲に邪魔されない夜は星を撮りに出かける。土曜日は珍しく快晴に近い満天の星空だったので、家から行きやすいセントーサ島へいってみた。
セントーサ島はユニバーサルスタジオがあるリゾート地で、シンガポール本島とは橋でつながっている。この橋はお洒落に整備されているし、両サイドが海なこともあって意外と暗い。だからUSSが閉園して近隣のコンテナターミナルの稼働が落ち着く時間に、僕はこの橋の上で夜空に向けてカメラをセットする。
こうした暗くて静かで警官隊の巡回が薄い場所には、高確率で先客がいる。地面で寝そべっているおっちゃん達だ。他にも30代と見えるお兄ちゃんや、たまに女性もいる。
実家以外に居場所がない
昼間、外国人観光客で賑わうテーマパークエリアは、日が落ちると今夜の宿がない人たちの居場所になる。身なりからして彼らはホームレスではないと思う。新しそうな機種のスマホと、人によってはUSBバッテリーまで持っているし、昼間は普通に働いているような服装だ。
日本でもネットカフェ難民になる若者が社会問題になっている。とは言え日本人はよっぽど困窮してない限りいろいろ行き場がある。友達の家に泊めてもらったり、そういう人的リソースを持ってなかったとしても、3000円くらいで泊まれて風呂にも入れるサウナやカプセルホテルが大きな街に行けばある。最悪、ファミレスや漫画喫茶で当座をしのげば野ざらしは回避できる。
僕は実際そういう状況に追い込まれたこともあるんだけど、夜行バスで大阪まで行って新今宮にある一泊2000円のホステルに長居させてもらった。
ところがシンガポールの若者が実家と揉めて追い出されると、それだけであっけなく宿無しなってしまう。
この国では多くの若者が結婚するまで実家暮らしだ。すなわち一夜の宿を友達に頼るということは、友達の実家を頼ることになる。ご両親はもとより爺ちゃん婆ちゃんまで同居な家庭も多く、これはハードルが高い。
もし自分の家を持っている先輩がいたとしても、それはすでに家庭を持っていることを意味する。面識ない奥さんや赤ちゃんがいたりしたら、先輩宅に居候するのも気が引ける。
それに加えてシンガポールのホテルはクソ高い上、ホステルはシンガポール人の宿泊を禁止しているところが多い。これは国が小さいため「国内旅行」という概念がないからだ。「安宿に泊まるシンガポール人=カネがない問題を抱えた人」という公式が高確率で成り立つ。だから情に訴えて宿代を踏み倒す人から経営を守るために、宿無しシンガポール人はたとえ充分な現金を持っていても、ホステルからも疎外されてしまう。
だから未婚のシンガポール人にとって、実家が唯一絶対の生命線なのだ。
国が小さいってキツい
8500万円のコンドミニアムを無理して買って借金漬けの友人も、実家のHDB(公団住宅)には暴れるニートの実兄がいるため、静かに暮らせる場所がどうしても必要だった経緯がある。未婚のまま20代で自分のHDBを持つのは法律・経済の両面で難しい。そうなるとHDBよりずっと高価なコンドミニアムを無理して買うしか無い。
こんな風にこの国の住宅難は人々の人生を大きく制約していると思う。それもこれも都市国家シンガポールは国土が狭いからだ。
もちろん国土が小さいメリットもたくさんある。シンガポールの国土は東京23区程度の広さだから、ほぼ全島で電線が地中化されているし、バスと電車でどこでもいけて自転車道までも整備されている。また、監視カメラで領土をくまなく警備できるので、シンガポールで犯罪を犯すと必ず捕まる。これは世界最高レベルの治安に大きく貢献している。
でも、夜な夜な人気のない道端に寝床を求める「普通の人」を見ると、国が小さいと逃げ場がなくてキツいなって思う。何かと家族を大切にするシンガポール人だけど、こういう切実な事情もあるんだな。