スラム探訪記

裏路地を行き交う人々を眺めながら適当にビール飲んでるのが好きだ。今まさに生きている街で、地元の人の泥臭い日常を覗き見してる感じが楽しいんだよね。

そんな僕が初めて「スラム街」に足を踏み入れたのはロサンゼルスだった。

いつものように適当な時間に起きると、鉄格子と防弾ガラスで守られたこれぞアメリカって感じの近所の商店で、一番安くて一番アルコール度数が高いビールを手に入れた。

ロサンゼルスはほとんど砂漠だ。強い日差しと雲一つない青い空、カラッと乾燥した空気。その日も僕は気の向くままに街を歩き始めた。

クルマ移動を前提に設計されているからこの街はだだっ広くて散歩に向かない。そんなことを思いながら中心街の裏路地を抜けると、突如ホームレスのテント村が出現した。

直前まで高層ビルと細長いヤシの街路樹が印象的な「ザ・ロサンゼルス」って感じの町並みだっただけに、この光景を突然目の当たりにして正直ギョッとした。

どうやらLA中心地にある「Skid Row」と呼ばれる地区に迷い込んでしまったらしい。ホームレスが集まって暮らしているエリアだ。

日本のホームレスは河川敷なんかに集まって「すみっこぐらし」という感じだけど、ここSkid Rowでは普通に人が住んでいる住宅や、寂れてはいるものの営業中の商店のまん前にテントを張って暮らしている。確かに廃墟感満載なビルもあるにはあるけど、普通に経済活動が行われているエリアに集落を形成するあたり、アメリカのホームレスは堂々としたもんだ。

日本ではダンボールが手に入りやすいからか、ホームレスの住居といえばダンボールで作られる。一方、LAのホームレスの多くはホームセンターで売ってるようなキャンプ用のテントを歩道の脇に張って暮らしている。さらに貧しい人はブルーシートや黒いゴミ袋を継ぎ接ぎにして簡易住居にしているけど「門構え」は日本のホームレス村より立派だ。

Skid Rowではスペイン語をよく耳にしたので、もしかしたらメキシコやカリブの島国からやってきたばかりの不法移民が、当座の宿をここに確保しているのかもしれない。トランプ大統領が追い出そうとしているこうした不法移民たちは、低賃金労働者としてアメリカ経済の土台を支えている。

ロサンゼルスは住民の分断が著しい

高層ビルが建ち並ぶロサンゼルスの中心地から徒歩圏内にこんなスラム街があるなんて。

ところが同じLAでも、「Hollywood」サインがある有名な丘の東側には、ビバリーヒルズもびっくりな落ち着いた高級住宅地が存在する。日本で言えば兵庫県・芦屋の「金持ち坂」の上の方ってな雰囲気。

この対極的な2つの居住区の住人は、日常生活で交わることはない。LAの街と人は、階級によって何から何まで完全に分断されている。ホームレス村と芦屋の豪邸を同時に拝める街。それがロサンゼルスだった。

スラムにハマる

フィリピン、インド、インドネシア、タイ、ベトナム…。

ロサンゼルス以来、散歩していてスラムっぽい雰囲気を察知すると、その方向に足が向くようになった。別に貧しい人を救いたいわけでも、ホームレス生活に興味があるわけでもない。スラムでボケーっとしていると不思議と不安から開放されるのだ。

その頃、僕は不安でいっぱいだった。

仕事をする自信を失い、安定的な人間関係を失い、祖国の生活に病み、クスリとアルコールに依存していた。この先にあるのは破滅しかない。通帳に刻まれた数字が人生のカウントダウンだ。その時が来たら死ぬしかない。そう思っていた。

【いや。その時が来ても死ぬ必要はない。カネも人間関係も国も必要ない。ただ生きていればいいんだ。】

スラム街で佇んでいると自然とそんな気持ちになれた。僕はスラムに救われた。