面倒くさいのは嫌だよねっていう共通前提は、社会のゆとりであり、民族を分断する

バンコクの地下鉄駅には金属探知機のゲートがあって、係員の荷物検査ともに、空港さながらの警戒態勢が敷かれている…と書きたいんだけど、そこはタイなのでユルい。

ってか意味ない。

荷物全持ちで金属探知機をくぐれば、とりあえずスマホが絶対に引っかかる。これじゃ誰も地下鉄に乗れないではないか。

でも大丈夫。優しそうなお姉さんが0.1秒くらいカバンの中身をチラ見して、全員無罪放免だ。僕のように旅行者でカバンを2つ持ってても、差し出した1個しか確認しない。ヤバい。

何がヤバいって、それにみんな並ぶ。「くだらんことしてんじゃね!」とか怒鳴る老害や、会社に遅れると騒ぎ出す人は1人もいない。

それもそのはず。並びたくない人は、そもそも並んでない。シレっとセキュリティの横を気付かないふりで通過する。気付かないわけはないんだけど笑

地下鉄に空港並みのセキュリティ検査をする国は結構あって、例えばニューデリーや上海の地下鉄でも、金属探知機に並んだ記憶がある。でも両国ともそれなりに厳格に運用されていた。毎日飛行機に乗る人はそうそういないけど、通勤電車となれば毎朝毎晩だ。良くやるなぁと感心したものだ。

タイほどグダグダな国もそうそうない。

みんな面倒くさいのは嫌

そんな意味ないセキュリティチェックを何で続けてるんだろう。

たぶん、こんなノリじゃないか。

国家にしろ民間企業にしろ、制度を考える人っていうのは大概現場のことを考えず、予算もつけずに適当なことを言ってくる。そういう無能な上司を持った時、人間のリアクションは2種類に分かれる。

「困ったことになった。どうにかしなくては」と奮闘し、予算が無いので帳簿を改竄して金属探知機を買い、職員にサビ残させて荷物検査を徹底する。何とか帳尻を合わせるものの、そのうちほころびが生じて潰れる。日本社会はこうして廻ってる節がある。

一方、タイの場合は「面倒いことになった。どうにか取り繕おう」とハリボテのセキュリティゲートを設ける。機能しなくていい。無能上司から「あの件はどうなった?」と聞かれたときに、それっぽく見えればいいんだ。

無能上司にしても予算をつけてない反面、波風立てると自分に跳ね返る可能性がある。ハリボテを追認するしかない。無能上司も、現場の担当者も、面倒くさいのが大嫌いなんだ。実際に機能するかは二の次で、面倒くさくないサバーイな日常こそが正義。

さらに一般市民も政府に楯突いて面倒いことになるよりか、無意味なセキュリティに毎朝毎晩並ぶ方がラクだし、忙しい日はシカトしてスルーすれば良い。全員が茶番だと自覚してるから問題にならない。

全部丸く収まる。

テロが起こるその日まで。

国民の流出

いま朝ビールをキメながら、セルビア産まれのドイツ人とホステルで喋ってた。

どこの国でも、人間が二極化しているという話題。

トランプ vs ヒラリーでアメリカは赤と青に二分され、ブレグジットでイギリスは都市部と地方で真っ二つ。ドイツも中東からの移民を巡って、メルケル政権と対立する民族主義の右翼政党が支持を伸ばしている。

この流れは日本やシンガポールも例外じゃない。

要は、自国と外国の状況をリアルタイムで追って適切に人生を変える人と、地元志向で生まれ育った街と共に生きている人たち。両者の溝は深まるばかり。国境の中で住民の分断が進み、この先にあるのは内戦…かと思いきや、違う。

21世紀、国境は簡単に越えられる。

前者は祖国を捨て、自分の都合のいい場所にどんどん移動していく。日本政府は優秀な外国人を誘致などと言っているけど、実際は入ってくる優秀な外国人よりも、圧倒的な数の日本人が国外流出している。

彼らがどこへ行くのかといえば、例えばシンガポールだ。

民族的、文化的、言語的な障壁を限りなく取り除けば、アジアの小国であっても世界中から必要な人材を集め、彼らの祖国よりも良い労働環境で、良い給料を払える状況にある。

ここバンコクにしても、グダグダな祖国タイにうんざりした人達がわんさか国外に出ている。確かに、どちらかといえば出稼ぎみたいな、低賃金で専門性の低い職についている人もいる。

でも、こっちで良さげな学校を出て、シンガポールや欧米の国際企業で働くタイ人がとても多い。

その結果。

ここでグダグダと無意味なセキュリティゲートに並んでいる人達と、彼ら在外タイ人の格差は広がって行くばかり。

民族の分断

サバーイと面倒から目を背け、波風立てず日常生活に適応していく能力は、20世紀には生き抜くための必須スキルだった。日本でもまだ、日本企業に勤め、休日は地元の球団やJリーグを応援し、上司に付き合って二次会三次会と私生活を奉仕出来る人材が評価されるフシがある。

でも、国境による制限が意味を失った今、そこに価値を見出さない人が国外流出して、地元に残った人達より良い暮らしをする時代になっている。

僕は日本人だから、まだ日本で暮らす日本人と、シンガポールで暮らす日本人の間にそんなに大きな差異を感じない。

でも完全に客観的に見られるタイ人コミュニティについては、シンガポールのタイ人と、バンコクのタイ人では、最早越えられないヒエラルキーを感じざるを得ない。

バンコクのタイ人が無意味なセキュリティに並んでいるうちに、シンガポールのタイ人はお金を稼ぎ、次のステップに進む準備をしている。

10年後の両者の差は明らかだ。