上海の居心地の良さで芽生えたニワカ中国愛が、駅の切符売場でズタボロになった話

沈没バックパッカーの朝は遅い。

この日も上海のホステルで目覚めたらすでに昼を過ぎていた。

でも昨夜はまぁ頑張った。中国語のWebサイトと格闘して、上海南駅から中国南部の街「南寧」まで、長距離列車が出ていることを突き止めたのだ。南寧からはベトナムのハノイへ向かう国際長距離バスが出ている。これは日本語の微妙な旅サイトの情報だけど、まぁベトナムまでの足は南寧に着いてから考えよう…。

上海の居心地があまりにも良すぎて、大したこともせずグダグダとすっかり沈没してしまった。それで鉄道でベトナムへ向かおうと心に決めたのが1週間前。ビザ無し滞在期限も迫っていることだし、そろそろ重い腰を上げなくては。

ちゃんと調べれば今時ネットで予約出来るかもしれないけど、僕は長距離列車の乗車券を出発駅で買うのが好きだ。

硬派なバックパッカーの儀式みたいなもんだね(=^・・^=)

上海南駅は街の中心部から結構離れた場所にある。地下鉄に30分も揺られてたどり着いた上海の陸の玄関口は、超巨大な円盤状の建物だった。おそらく東京ドームよりデカい。ショッピングモールも併設されていて、タクシーがズラリと並ぶ長い車寄せは空港と勘違いするほど。

とは言え中国随一の商業都市上海も、中心地から地下鉄で30分も離れれば結構田舎である。上海南駅の建物は、さながら広大な住宅地に降り立ったUFOみたいに感じた。

中国の洗礼

上海中心部は暮らしやすい街だ。

外灘と呼ばれる高層ビルと洋館が並ぶ観光地から一歩奥に入れば、そこには濃い裏路地が広がる。そんな裏路地の古い建物は、雰囲気を活かしてリノベーションされ、ホステルやカフェになっている。洒落てて便利な立地なのに値段はそんなに高くない。

徒歩圏内にビールが買えるスーパーや昔ながらの安飯屋がいくつもあるし、地下鉄に乗ればいくらでも暇つぶし出来る。地元の人達もすごくキチンとしていて、日本人だからって差別されることもない。

僕は上海が好きになり、中国も好きになった。

が、そんな僕のニワカな中国愛は、上海南駅の切符売場で無残に全部崩れ去った。

もうね、とにかく横入りが酷い。

ちょっと気を抜くと平然とオッサンが割り込んできて、注意すると物凄い剣幕で怒鳴り返される。しかも僕の後ろのオババにも「なに割り込まれてんのよ!こっちまで遅くなるでしょ!!」と怒鳴られる。その声がまたデカいんだ。

僕が悪いのかよ。。。

しかも30分以上そんな怒声の中に並び、カウンターにたどり着いても油断は出来ない。どんどん横からカネをカウンターに突っ込み、そもそもまるっと行列をスキップして切符を買おうと群がるオッサンたちと戦わなくてはいけない。駅の職員も職員で、客がモタモタしているとそういう横入りを先に相手してしまう。

弱肉強食。中国人の声がどうしてデカいのかよく分かる。ここでボソボソ喋っていたら切符一枚買うことが出来ない。僕は心を奮い立たせて、ここにいるのは全員敵だと意識した。

とは言え、カウンターの喧騒を行列から30分も観察していたら、中国語が喋れない僕がすんなり切符を買える気が全くしない。そこでスーパーのレシートの裏に「上海南 – 南寧 硬臥 1个人」と書き、三段ベッドの絵も沿えてその一番上にでっかく矢印を描いた。

漢字と絵が書ける日本人で良かった。

「硬臥」というのは一番安い三等寝台車のことだ。三等寝台は横幅わずか60cmの折りたたみ式ベッドが縦に三段並んだ作りをしている。昼間2段目は折りたたまれ、1段目は公共の座席として使われる。だから昼までグダグダ寝ているには、何としてでも3段目の切符を取る必要がある。

上海から南寧までは26時間。本当はさらに安い「硬座」という選択もあるんだけど、この間ずっと座りっぱなしでは痔が再発してしまう…。

並びながらここまで準備しておいて、いざ僕の順番がきたら横入りのオッサンを押しのけて「出来るだけ早い日の切符を!」と怒鳴りながらレシートのメモ書きをカウンターに差し入れた。

お絵かき作戦大成功!

職員から「3日後になるけど良いか!」って聞かれて、うぅ随分先だなとは思ったけど、ここでNOと言ったらもう一生切符が買えないのでおカネを払った。

こうして上海から南寧まで、26時間の列車の旅が始まった。この続きはこの記事で(=^・・^=)!

中国を三等寝台列車で旅した人間模様