シンガポールで暮らしていると「結婚」とは何なのかわからなくなる

日本で鬱になって働けなくなった教訓から、シンガポールでは「仕事を続ける」ことを第一目標に転職活動をした。具体的にはたとえ給料が安くても精神的肉体的に無理することなく、持続可能であろうユルそうな求人だけに履歴書を送った。

それで目出度くアメリカ資本の1社から内定と就労ビザを頂くことができた。

だから今の僕にとって、定時である5時半をカウントダウンするのが仕事みたいなもんだ。ストレスもなんもない。

5時半ピッタリに社内システムからログアウトして、テニス道具を背負ってスケボーで会社を飛び出す。服装に規定がない会社なので、そのままテニスの日星国際親善試合に参戦できるのだ。

自由な労働環境でうらやましいと思う人がいるかもしれないけど、あくまで給料はシンガポール在住日本人の最低レベルであることを断っておく。



「俺は自分の人生を持っていない」

そんなある日、直属の上司であるシンガポール人男性と談笑している時に、こんなことを言われた。

「とは言え君もいい歳だろう。お国のご両親はそろそろ結婚して孫の顔が見たいとか言わないのかい?」

昨今話題のセクハラに抵触しそうな話題ではあるけれど、嘲笑や批判の要素を一切感じなかった。うちの職場で日本人は絶滅危惧種の少数民族なので、上司は純粋に僕のような自由人が日本の文化でどのように扱われるのか興味があったらしい。

確かに弟も結婚したし、思うところはある。ただ僕の両親は何も言ってこない。もし彼らが何か言ってきたとしても、僕はこの生き方でしか人生を楽しめないんだ。

こんな風に答えたと記憶している。

「ガールフレンドも作らないのかい?」

さすがにセクハラが過ぎるとは思った。もし僕が同性愛者だったらどうするつもりなのだろうか。

正直なところ、独り身で寂しいと思うことは多い。それでも今までの恋愛経験から、たとえ彼女ができても短い間に共依存の沼に引きずり込んでしまい、結果として独りでいるよりも悲惨な精神状態に陥る。

交際相手を大切に思えば思うほど、共依存の沼は深くなる。底無しのアリ地獄。

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もう自分が大切に思う女性を傷つけたくない。そんな切迫感から、僕は寂しさを押し殺してでも独り身を貫く決意をしている。

ただこんな強烈な感情を英語で表現できないし、たとえ言語能力的に可能だったとしても、雑然とした職場で表に出したくない。

恋人はトラブルの元だから、女子とは適切な距離が必要だ。

結局こんなふうにお茶を濁した。そばで聞いていた、シンガポール人彼氏から一向にプロポーズされず、三十路を超えて焦っているタイ女子同僚の横顔が強張る。

するとぼやくように上司が言った。

「うーん、わかる気がするよ。I don’t have my life already」

「俺はもう自分の人生を持っていない」という妻子持ちの上司。婚期を逃しそうなタイ女子の顔がさらに強張る。

上司よ、タイの黒魔術はガチでヤバいぞ。マズいよ…マズい。。。



男性がキャリアの空白を背負うシンガポール

昨今の言論空間で話題なように、日本では子育てにおける女性の負担が大きい。

日本の労働環境があまりに過酷なので、それでも家計を支える男性の方が大変だと言う反論もある。でもキャリアを継続して経済的に自立する力を持ち続ける男性の方が、社会的な安全保障を維持してやはり強い立場にあると感じる。

そういう意味で実際の育児や家事の負担だけでなく、職歴を出産によって中断せざるをえない女性の方が社会的にリスクを負っている。そんな女性側の結婚したくないストーリーは、ご本人も女性であるWellaさんがわかりやすく綴ったこの記事に譲る。

http://wella-world.com/840.html

ところが男性に2年間の徴兵制を課すシンガポールでは、まさに間逆の状態。

高校から大学卒業までの間に、軍事訓練で2年間のブランクが発生するシンガポール男子。男性であると言うだけで社会に出るのが遅れてしまう。ただでさえ激しい競争社会なのに、この2年のブランクはシンガポールの男性にとって大きな痛手だ。40歳になるまで予備兵として定期的に召集されるのも、地味に負担になっているように見える。

もちろんシンガポールの女性は高学歴かつキャリア志向で、優秀な人が多い。でも、多く輝かしいキャリアを形成する女性たちの影で、割を食ったと感じている男性が多いのも事実。

しかも、いざ結婚して子供を設けるとなると、男性の方が多く稼ぐべきと言う社会的圧力を感じるらしい。まぁそれは「女性が子育てすべし」という社会的圧力の裏返しでもあるのだけれど…。

それでも子育てをメイドさんや住み込みで働く乳母さんに任せて、女性もキャリアも続けられる環境がシンガポールにはある。まぁものすごくお金がかかるのだけどね。

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そんな男女の渦巻く感情を別にしても、シンガポールの結婚事情は複雑だ。

というのも住宅難の都市国家なので、結婚するまで実家住まいが当たり前。これは少子高齢化に悩む政府が国民の結婚を奨励するため、独身者は法律で35歳まで家を買うことができないからだ。とはいえ何のイベントも起こらないまま三十路を超えると、高齢の両親との同居も精神的限界に達し、結婚とは切実に実家を出る手段、家を買う手段と公言いる人も多い。

もちろん抜け道はあって、独身者も日本で言うところのタワマンや億ションに当たる「コンドミニアム」を買うことはできる。それでも2012年以降シンガポールの不動産価格は低迷しているので、この時期に住宅に多額の投資をすることは大きなリスク。

実際に住宅ローンで含み損を抱えてしまい、逆に婚期を逃しそうな人も僕の周りにチラホラいる。

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そんなわけで、愛だ恋だのロマンチックな感情の前に、シンガポールでは不動産という人生最大の買い物に「結婚」という社会制度が結び付けられている。また出産後のキャリア継続もお金があれば乗り越えられる問題だけど、それがあまりにも高額なため、結婚しても子供をもうけないDINKSも僕の身近にたくさんいる。

僕の上司が「自分の人生がない」と愚痴ったのにはこのような背景がある。

この国の人たちが抱く結婚観は日本人のそれと同義では無い。

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結婚まで貞操守ることを推奨する宗教が多数派を占めていることもあり、シンガポールに童貞や処女を馬鹿にする風潮は微塵もない。

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そんな性愛感が支配的だからか、好きな人と一緒にいられることが幸せ、一生に一度の運命の女性と付き合ってみたい、そんなピュアな気持ちを持ち続けている人もいる。

独身シンガポール人の大部分はいつかは結婚したいと願っていると感じる。不利な条件がたくさんあるにもかかわらず。

僕には結婚する動機わからない。

シンガポールに住んでいると、結婚とはなんだろうと困惑する。