自己肯定感に悩むとある中国人留学生がシンガポールを去るまでの出来事

彼と出会ったのは、シンガポールのホステルで管理人をしていた今から6年前。

中国からの留学生で超優秀。地元四川省で100番以内の成績を収め、学費減額を獲得してシンガポール国立大学で建築を学んでいた。語学の才能もあり、四川省方言、標準中国語、広東語、英語に加え、日本語とヒンディー語も喋る。

なんでヒンディー語なの(=^・・^=)?

「下宿の大家さんがインド人だから興味を持った。インドの仏教が面白くてヒンディー語で聖典を読み始めた」

お、おう…。じゃあ日本語は(=^・・^=)?

「日本に留学するため。京都に行って戦国時代にハマった」

これが尋常じゃない。中国からやってきた留学生なのに、シンガポールでも短期留学枠を勝ち取り、留学先のシンガポールから更に日本に留学するという離れ業。再帰処理みたいだ。そして日本語でサクっと必要単位を取り、しれっと帰ってきた。理系で、専攻は建築と設計。

優秀すぎて笑うしかないw

でもなんかもっと、歴史とか人文系の学部が良かったんじゃないの(=^・・^=)?

「仕事になる専攻が留学に有利。歴史と言語は趣味でいい」

そんなヤツだった。

筋肉のないひょろ長い体格、フチの細い眼鏡、南国に不釣合いな白い肌。外見から繊細さが伝わってくる。

ところが彼はもうシンガポールにいない。人生に悩んで故郷に帰ってしまった。

彼が崩れていく過程は、僕に多くの示唆を残した。



神童も二十歳過ぎればただの人

その後、僕はワーホリビザが切れてインドへ引っ越した。まぁ程なくお腹を壊してシンガポールに舞い戻ってくるんだけどね。

その間に彼は無事に大学を卒業して会社員になっていた。

小規模な建築事務所の設計士。専門を活かして就職に成功したのだ。彼は学費減額という事実上の政府奨学金を受けたので、卒業後はシンガポール国内で3年間働く義務がある。

残念ながらこの3年は、彼にとってツラい時間となる。

一方、インドからシンガポールに舞い戻った僕も、就労ビザで苦労した末にやっとこさ正社員に返り咲いた。2年ぶりに手にした経済的安定である。

そんな折、突然彼から連絡を受けた。話を聴いてほしいと。

夜の遅い時間だったので断ろうかと思ったんだけど、かなりツラそうだったのでしょうがない。夜まで開いているホーカーで、1時間ばかり彼の話を聴いた。

友達がいない。仕事は上手くいっているけど満たされない。国に帰りたい。ここでは誰も僕を理解しない。シンガポールに長くいすぎた。こんな場所であと3年も働かないといけない。

友よ、それは君の問題で、シンガポールのせいではない。

いわゆる「神童も二十歳過ぎればただの人」ってやつだ。



特別な存在でありたい苦しみ

なんだかんだ学校という社会は「成績」という唯一絶対の価値基準で動いている。6言語を操り留学枠を勝ち取れば一目置かれるだろうし、それだけ勉強がデキれば試験前に方々から頼りにされるに違いない。

そうやって必要とされるのを「友情」と勘違いする人は多い。

でもその実そういう人達は、具体的な見返りを求めて寄ってきただけ。だから卒業と同時に必要無くなってポイ。一撃で疎遠になるのだ。

もちろん彼は優秀なので、勉強だけじゃなく仕事もデキたらしい。それでも彼の同僚が、仕事がデキる人だから仲良くしたいとは限らない。

大人になると価値観が多様化し、全員から評価されるなんてあり得ない。

テニスに興味ない人は、僕のテニスが上達してもそんな情報はどうでもいい。ブログに興味ない人は、僕のブログが10万PVを達成してもどうでもいい。大人になると興味を同じくする小さな社会で自分を磨き、モチベーションにつなげていくしかないのだ。

それでも彼は特別であり続けようと、必死にもがいた。

中国の熾烈な受験戦争に青春を捧げた彼にとって、それ以外に他人と関わるチャンネルを持っていなかったんだと思う。

いつしか彼は、自分の能力が如何に高いかをあからさまに主張するようになった。家に遊びに行くと、高校の成績表や表彰状を引っ張りだしては武勇伝を語り始める始末。

それは「タダの人」に堕ちた、元神童の悲痛な叫びだった。

でもそれは傍から見れば「ウザい自慢」に映り、彼の周りからさらに人を遠ざけた。僕らの共通の友達であるホステルオーナーも、会う度に「彼は変わってしまった」「何を話しているのかわからない」「伝えようと話すのを止めた」と嘆く始末。

彼は元々早口なんだけど、輪をかけて早く、そして難解な単語を使って、小声で話すようになった。

これは要はマウンティングなのである。

中華系シンガポール人があまり使わない四字熟語表現、英語が下手な僕が知らない英単語や言い回し。そんな通じない言葉をわざわざ使って、自分の知識を認めさせたいのだ。小さい声でボソボソ喋るのも、聞き取ろうと必死になって欲しいのだ。

全ては注目されたいがために…。

彼のこういったウザい行為はどんどんエスカレートしていき、結局彼の周りには誰もいなくなった。

Xジェンダー

それから半年くらい彼から音沙汰が無くなった。でもある日、古巣のホステルでビールを飲んでたら、突然不自然に背が高いひょろ長の女性が入ってきた。

それは、女装した「彼」だった。

しばらく会わないうちに、彼は「彼女」に変貌を遂げていた。ザワつくホステルのスタッフたち。LGBTの集まりに寄った帰りに、フラリ寄ってみたという。

今でこそ性的マイノリティであるLGBTは一般に知られ、あからさまに差別さることは減ったように思う。でもシンガポールの法律は同性愛を認めておらず、特に男性間のそれは刑罰の対象だ。言論の自由が限定的に許されているホンリム公園で開催されるLGBTのイベントに協賛した企業が、政府から警告を受けたこともある。それにはGoogleなど世界のトップ企業も含まれる。

彼女はXジェンダーという、男性でも女性でもないアイデンティティを持っているらしく、最近はそういう方向性で活動しているという。身体を女性化するホルモン注射も始めたらしい。女性としておしゃれするのが楽しいから、女性として生きようと決意したと。

これは僕の偏見かもしれない。

でも、数値化出来るような競争原理で最早「特別」でいられないから、彼は目に見えて「特殊」な存在になることで注目を集めたいのだと感じた。実際、みんなが注目している場所で敢えてホルモン注射をして見せ、奇異の目で見られることを楽しんでいるよう。

僕の目にはそう映った。

そしてLGBTイベント帰りの「彼女」は言う。

「参加者のほとんどはゲイかレズビアンだから、自分みたいな無性のXジェンダーは理解されない」

友よ、それは違う。何故ならゲイとレズビアンが楽しそうに交流していたからだ。彼らの雰囲気は、ちょっとした差異に目くじら立てて排除するようなものでは絶対にない。僕はLGBT当事者ではないけれど、彼らの集まりに一度でも行けばそれは明らかなんだ。

誰かにスゴい人だと認められたくて自慢話ばかりしてたら、一生誰からも尊重されない。まずは相手の話をキチンと聴いて、その人の寄り添う姿勢が大切だ。

これが「彼女」と話した最後になった。

ホルモン注射の影響からか、僕の友人は急激に男性の激しさと女性の不安定さを合体したような、難儀な性格になってしまった。その結果、仕事が出来るのに職場でも浮くようになる。

公私ともに孤立すると、もうその社会に居場所はない。

風の噂に聞くに、彼/彼女は罰金を工面して中国に帰ったという。

言葉の限界

僕の友人は反面教師として、同じく人間関係が苦手な僕に、人との関わり方を教えてくれた。

自分の活躍したいエリアをはっきり持ち、そこで自己研鑽していくしかない。上手くいけばそのコミュニティで人気者になれるかもしれない。

でも、ぶっちゃけ人気者になる必要なんてなく、テニス仲間と楽しくテニスが出来ればそれでいいじゃないか。ブログ仲間とそれぞれの情熱を語り合うんでもいい。

そこに勝ち負けは関係ない。やりたいことは、やったもん勝ち。至極単純なんだ。

最後まで彼/彼女に僕が言いたいことを伝えることが出来なかった。結局、言葉で伝えられることなんて、その程度のチカラしか持っていない。

 

  1. Ginka より:

    中国の受験は本当に熾烈だって聞きますもんね。その時期に人格形成されてしまうと、誰からも見返られなくなった時の衝撃は相当強いでしょうね。

    ところで、発達障害のある子供達の中には、日本語より英語を好む子供が割といるそうなのですが、ししもんさんはどうですか?
    英語の方が論理的で分かりやすいという事以外にも、英語の周波数が耳に心地よかったりするらしいです。

    • ししもん より:

      Ginkaさん、コメントありがとうございます٩꒰⍢ ꒱۶⁼³₌₃

      僕は聴覚過敏持ちですが、英語が下手なので日本語大好きです。本をかなり読みますが、できるだけ早く内容を吸い取りたいので海外作家の作品でも日本語版を読みます。そもそも英語で意思疎通できるようになったのが7年前ですので。

  2. Ginka より:

    そうなんですね。アウトプット(発音、発語)は下手だけど、他人の訛りの差異を聞き分けるのは得意、とかいうのもないですか?

    ところで、以前、眉間のあたりがじんじんすると書かれていたと思うのですが、それはいわゆる第三の目が開きかけているっていうやつじゃないでしょうか?(それ以外の部位のじんじんはよくわかりませんが、、、活性化している?)私も以前眉間に磁石を貼りつけたようにジンジンしたりピリピリすることがありましたが、その時期は少し不思議な経験をしました。

    • ししもん より:

      語学に関しては苦手意識しかないっすねヽ( ̄▽ ̄)ノ
      他人にあまり興味ないのが根底にあるのかも知れません。下手でも話そうとする人は上達が早いです。

      脳みそジンジンに関しては、ドーパミンが暴れている説が有力です。ドーパミンの働きが悪いのはレセプターが少ないからで、行き場のない脳内物質が溜まってジンジンするというもの。

      疲れるとジンジンしませんか?

  3. ginka より:

    >疲れるとジンジンしませんか?

    疲れると・・っていうのはなかったですね〜、私の場合。

  4. MX より:

    友達に建築士がいたのですが、シンガポールでは経験を積むことができないと言っていました。
    大きな仕事は海外の設計事務所に発注されてしまうためのようです。
    結局その友達も海外に行ってしまいました。

    話に出てくる中国人はとても優秀な方ではないですか。結局、彼のレベルに合った会社、仕事、
    同僚でなかったため、しんどい思いをしたのではないかと。

    • ししもん より:

      MXさん、お久しぶりです(=^・・^=)♬

      その後中国で仕事していないようなので、彼の場合仕事に対する不満では無いようです。SGでも誰でも知ってる施設の設計に携わってましたし。

      あくまで神童から転げ落ちた「何者でもない自分」を受け入れらなかったのかと。まぁ来月久しぶりに会うので、実際のところを聞いてきます(=^・・^;=)

  5. コクトー より:

    はじめまして。
    「ブレイン・フォグ」からししもんさんのブログに辿り着きました。
    引き込まれるような文章ですね。読んでいてすごく共感できます。
    他の記事も読ませていただきますね~^^

    • ししもん より:

      コクトーさん、コメントありがとうございます(=^・・^=)♬

      今後ともユルくよろしくです。