シンガポールはつまらない。そんなタイトルの動画を政府の観光局が発表して話題になっている。
もちろんシンガポール政府がシンガポールはつまらないと主張しているわけじゃない。この動画は海外メディアで「つまらない国」ランキングのワースト2になったことへの皮肉と反論だ。
何もエキサイティングなことがない、ナイトライフがつまらない、文化がない、すべてはコンクリートだ。
そんな批判に対して明らかな反証映像を次々と示していく。もちろんシンガポールにエキサイティングな活動はあるし、独自の文化があるし、ほとんど全てコンクリートだけどそうじゃない部分もある。うん、ある。スンゲイブロウ自然公園とかね(=^・・^=)
ナイトライフは苦手だからわからないけど、その道のプロのJessicaさん曰く、世界でも珍しい安全に夜遊び出来る街らしい。
この様にシンガポール政府による反論動画はもちろんその通りなんだけど、ただ僕は反論として敢えてマトを外しているような違和感を覚えた。
今日はこの違和感について書く。
外国人向けに作られた観光地ばかり
シンガポール観光の定番と言えば、高層ビルの上にプールが乗っかった奇抜なホテル、マリーナベイサンズが筆頭に挙がるだろう。
そして貯水池を挟んでその向かいに立つのは世界3大ガッカリのマーライオン。ただ最近はプロジェクトマッピングでデコレーションしたり、もうガッカリとは言わせない意気込みを感じる。
シンガポール文化を代表するホーカー屋台では世界で1番安いミシュラン料理を楽しむことができるし、ナイトライフといえば世界でも珍しい夜にだけ開く動物園、ナイトサファリがある。
はぁ?リア充どもはクラーキーとかで下品にウェーーイwwwしてろや。
さらにアメリカのテーマパーク、ユニバーサルスタジオを誘致した総合リゾートアイランド「セントーサ島」もある。ここへ高層ビルをブチ抜くロープウェイで行けば、軽く近未来を味わえる。
ただ、これらの外国人向けアクティビティーは、あくまで外国人向けのアクティビティーとして作られたものだ。
シンガポールのタクシーは安い上に英語が通じ、Uberなど競争が激化した近年は騙されることなど皆無と言っていい。だからもしこれらの定番を全てタクシーで巡ったら、シンガポールの地元の人たちの暮らしに一切触れないまま滞在を終えることになる。
僕はバックパッカーズホステルの管理人を6ヶ月していたんだけど、観光やってきた人たちがシンガポール滞在で物足りなく感じるのは正にここだと確信している。
シンガポールは観光地と住宅地が分離されている
僕みたいな沈没パッカーになると、遊園地や動物園なんてほんとにどうでもいい。
もう死んでしまった吉祥寺の「象のはな子」みたいな、思い入れのある動物がいれば違う。だけどフラリやってきた異国で、わざわざそこの動物園を覗こうとは思わない。わざわざ金を払って絶叫する意味が分からないので遊園地も論外だ。
そんなわけで僕が旅先に求めるのは、濃厚な現地の人たちの生活。
ところが特に下調べもせずシンガポールにふらりとやって来て、地元の人たちの暮らしを垣間見るのはなかなか大変だ。なぜなら定番の観光地と人々が暮らす市街地が、都市計画のレベルで分離されているからだ。
でももしこれを理解したならば、シンガポールの滞在は劇的に面白くなる。
例えば電車が好きならChoa Chu KangのLRTは大興奮間違いなし。
林立するHDBと呼ばれ公団住宅の間を、まさに縫うようにおもちゃみたいな軌道車が行き来する。そこに乗っているのは紛れもないシンガポールで暮らす地元の人たちだ。
あまりに人々が暮らす高層住宅に近いので、そういった場所では一瞬で車両のガラスが曇りプライバシーを守っている。
と言われているんだけれど、往々にしてこの仕組みが壊れていて実は覗き放題だったりする。初期投資に莫大な額を注ぎ込むのに、メンテナンスに重点を置かないシンガポールがよく表れている。
さらにMRTとLRTが並走する区間など、かっこ良すぎて絶叫せずにはいられない。
「遊園地とか興味ない」と言うオタク気質のドイツ人にこの鉄道ツアーを勧めたら激しく好評だった。中心部から電車で1時間近くかかるのにだ。
金融の都市国家として世界的に有名なシンガポール。
だけどChoa Chu KangのLRTに乗ると、そんな近代的なビジネスを支えるのは高層アパートにつつましく暮らす人々なのだと肌で感じることができる。
旅行者がシンガポール滞在で物足りないのは、このような地元の人たちの息遣いだと確信している。
外国人観光客を市街地へ入れる危険
こんなふうに出来合いの娯楽施設だけでなく人々の生活に密着した観光を推奨すれば、シンガポールの満足度は飛躍的に向上するだろう。
ただそれが地元で暮らすシンガポール人たちの幸せにつながるかと言うと、心底疑問だ。
外国人観光客の中にはローガン・ポールような悪質な犯罪者が一定数混じっている。
僕がホステルの管理人をしていた半年間で警察沙汰になったのは2件。両方ともアメリカ国籍。1人は強制送還、もう1人は実刑の上強制送還となった。白人の中にはアジアを見下し、祖国ではやらないような犯罪に手を染める連中がいる。
シンガポールには周辺の途上国からもたくさん観光客が来るので、その中には初めて体験する先進国に興奮して法を犯す場合もある。僕の勤めていたホステルでは、特定の国籍は問答無用で追い返していた。人種差別と批判される事はあれど、実際にそのくらい犯罪者が多い国籍というのがあるのだ。
そのほとんどが善良だったとしても、たとえ1人でも犯罪者が混ざっているなら観光客を市街地に近づけるべきではない。ローガン・ポールみたいな犯罪者が自分の街にやって来たら誰だって嫌だ。
そのためには観光施設で巧みにオリジナリティーを出しつつ、なおかつ地元の人たちに害が及ばないよう観光客を遠ざける工夫が必要。これを都市計画のレベルで見事に成し遂げているのがシンガポールだ。
ただ、副作用として観光客には漠然とした物足りなさが残る。でも住民の安全を考えれば、これはいわば必要なトレードオフと言える。
僕がシンガポール観光局の反論動画に感じた違和感は、観光資源と住民の安全を天秤にかけたギリギリの葛藤だ。