雇用の流動性が高いシンガポールでは、毎月職場の誰かが辞めていく。
だから去る人をイチイチ気にしてらんない。デスクに見慣れないお菓子が置かれていたら「あぁ、また人が減ったんかぁ」って感じ。
全社員参加の歓送迎会なんてのは、閉鎖的な労働環境でのみ成り立つ「奇祭」だ。
逆に新しい人もバンバン来るので、誰だお前的な名前がわからない同僚がいつも数人いる。入れ替わりの度に業務経験の蓄積がリセットされ、グダグダが常態化している。
そんな職場なので、僕が10日間の休暇から戻ったら中国人の同僚が退職していた。
いつものレイオフではなく、自分の意志での退職。仕事がデキる彼を失うのは職場の大きな損失だ。僕もお世話になったのにお別れを言えなかった…。
などと言っときながら、辞める話を前々から聞いていたのに、そういやすっかり忘れてたわ(=^・・^;=)
ごめんよ。
彼はシンガポールで仕事を辞め、中国へ本帰国するという。もうすぐ2才になる子供の将来を考えた時「中国人として育てたい」と考えての決断。子供のアイデンティティ形成にまつわる悩みは世界共通なんだな。
本帰国を悩んでいた時、彼が一番受け入れらなかったのが中国の親戚付き合いに再び組み入れられる苦痛だという。
「中国の家族は本当に疲れるんだ」
そういえば以前も彼は、親戚衆がシンガポール旅行にやってくるのを疎んでいた。
「もてなされることを期待して来る人々を満足させるのは難しい」
至言である。
ところがそれから程なくして、彼は親戚衆から紹介された同郷の女性と結婚し子宝にも恵まれた。名家のひとり息子として、本帰国の外堀を徐々に埋められてった感じだ。
破綻する親戚付合い
面倒くさい親戚付合いと聞いて思い出すのが「サマーウォーズ」というアニメ映画。
地味な数学少年が、稀代のビッチとして話題になった美女先輩の実家に紛れ込む。その大家族のドタバタ喜劇といった感じ。
ところがこの大家族のドタバタを見て不快になる人が続出。
男衆は酒ばっか飲んで役に立たず、これまた働かない老婆が偉そうに家族を仕切っている。そして必要な家事をこなして家族を廻しているのは大家族に嫁いだ若い嫁達。
伝統的な家族のクソなところを凝縮したような、閉じた人間関係。
僕も途中で胸くそ悪くなり、最後まで観ないままDVDをTSUTAYAに返した記憶がある。なおその数年後に半強制的に最後まで見る機会があり、ストーリーは知っている。
ところが退職した彼いわく、現実はもっとキツいらしい。
サマーウォーズでこき使われている若い嫁たちは何人もいる。酒飲んで騒ぐ男衆も何人もいる。
ところが「一人っ子政策」で年寄りばかりの家族構成では、若手が絶対的に足りない。女性1人で親戚一同の家事を廻すのは不可能。酒ばっか飲んでる男衆も、その中に若手が1人だと老人から袋叩きに説教されてツラい。
「サマーウォーズ」的な地獄の大家族は、少子高齢化社会では成り立たないのだ。
春節から逃げる人達
クリスマスを家族で祝うフィリピン。ソンクラーンという独自の新年があるタイ。東南アジアの華人はもちろん、ベトナムや韓国など太陰暦に基き旧正月を祝う人達も多い。
国際色豊かな職場で働いているので、同僚が帰省するタイミングがバラバラで面白い。ところが彼らが郷里の祭事に合わせて帰省するかというと、実はそうでもない。
先週の旅行で計画が苦手な僕を手伝ってくれたベトナム人同僚も、テト(Tết)というベトナム版旧正月の2週間前に帰郷していた。なんで?
「Tếtに帰ると親戚巡りで自分の時間を楽しめない」
なるほど(=^・・^=)!
両親や兄弟に顔見せするため祭事の頃に帰国はするものの、祭事そのものには参加しない。これは賢い!良いとこ取りじゃん!
さらに。
中国に住む中国人やシンガポールの中華系の人は、春節の連休で海外旅行に繰り出す。
日本みたいに仕事が忙しくて盆暮れ正月しか休暇を取れないんだと思ってたけど、実は面倒くさい春節の親戚行事から逃げるためらしい。
コレにも犠牲者がいて、先の中国人同僚くんだ。
親子3人で静かに新年を迎えられるかと思いきや、祖国から春節脱走組がシンガポールに押しかけ、連休が接待で台無しになったらしい。
これなら中国に住んでも面倒くさいのは同じだと彼が考えるのも理解できる。
「親戚」はオワコン
このように「親戚」という人間関係は、もはや若者にとって百害あって一利無しのオワコンだ。
そして個人主義に目覚めた若者は、実際に親戚行事を避け始めている。
それもこれも「伝統」の上に安愚楽をかいて、数が少ない若者を使い潰す年寄りが悪い。「親戚」のように年寄りにしか利益がない人間関係は、個人主義の波に飲まれて程無く滅びるだろう。
バルス(=^・・^#=)