経済成長はもはや人を幸せにしない

タイタニック。

流浪の画家であるジャックが、名家出身のローズに恋をする。社会的身分の差を越えた恋愛模様を描く前半とは対象的に、後半は沈む豪華客船を舞台にパニック映画の様相を呈してくる。

落ち着きがなくて映画館でジッしていられないんだけど、タイタニックは僕が最後までストーリーを知っている数少ない映画だ。あ、後半はあやふやかも…。

中でも印象的なシーンが2つある。

1つは3等雑魚寝部屋の乗客であるジャックが、成り行きで1等船室の豪華ディナーに招待されるシーン。形式張ったビジネスや出自の自慢話が多いなか、ジャックは持ち前のイージーゴーイングな性格でその場に溶け込む。

もう1つは逆に1等船室のローズが、3等の乗客が荒っぽく呑み踊るパーティに混ざるシーン。速いテンポでブルーグラスが演奏される雑多な船倉で、上流階級の象徴であるバレエを披露したりタップダンスで人気者になる。

この2つの場面の対比によって、鯱張った上流階級より人間味がある庶民の方が暖かく幸福に描かれる。実際ローズも脱いじゃうくらいに楽しかったんだろうね。

3等雑魚寝の安心感

旅人は1等船室が好きなタイプと、3等雑魚寝の雑多な雰囲気に惹かれるタイプに分かれる。

例えば旅をしながらアフィリエイトで成功している人たちには1等船室派が多く、高級ホテルやエアラインのマイル、アメックスみたいなプレミアムクレカについてやたら詳しい。

最初に僕を雇ってくれたシンガポール女子もこのタイプ。

「アメリカ西海岸をクルマでのんびり旅しましょう」と誘われたのでノコノコついていったら、泊まるのはシルク・ド・ソレイユを擁する5つ星ホテル、レンタルしたのはシボレーのオープンカーという豪華ぶり。支払いは全部プラチナカードだった。

「せっかくアメリカ来たんだし楽しまないと」

そりゃそうだけど、のんびり要素はどこいったんすか…(=^・・^;=)

僕はと言うと完全に3等雑魚寝が落ち着くタイプ。例えばカプセルホテルが好き。

聴覚過敏だからか、かすかな音が壁に反射してくる感覚で、目を閉じていても部屋の大きさを「感じる」。トイレが体育館の大きさだったら落ち着かないでしょう。無駄に広いホテルに泊まるとそれに近い不安感を覚える。

そして実際によく眠れない。

あとベッドにしろ布団にしろ、身体の一部が壁にくっついている状態が落ち着く。高級ホテルのベッドは壁際に設置されないので、両サイドの空間に不安を覚える。

そこいくとカプセルホテルはあの包まれるような圧迫感でむしろ安らげる。

確かに他の住人がゴソゴソうるさいってのはある。でも高級イヤホンを付けれてば大して気にならないし、人間の気配がどこか独り旅の孤独を埋めてくれるところがある。

やっぱカプセルホテルは最強である。

3等雑魚寝は治安の試金石

1等船室の上流階級も、3等雑魚寝の労働者階級も、アメリカに到着する時間は同じなのがポイントだ。

懐事情によって食事やサービスの違いはあれど「アメリカ移住」という大目標はチケットの値段によらず等しく達成される。そういう意味では安い3等雑魚寝の方がお得とも考えられる。

ところが不測の事態に陥った時、この階級の違いが如実に効いてくる。

タイタニックも沈没までのカウントダウンで上流階級から救助する方針が取られ、3等雑魚寝の貧乏人は地下の船倉に閉じ込められちゃう。

移民政策に失敗したヨーロッパは近年急速にタイタニック化しているように感じる。

市民が憩う市場やお祭りでテロが起こり人が殺される。ギャング化した底辺若者が街を破壊する。暴徒化した移民が現地の女性をレイプする。

だから裕福な人たちは安全な地域に固まって住む。安全と平穏な暮らしを買うことができるのは、限られた地域に住める限られた人たちだけだ。

でも安全に値札が付いているのは途上国ではもとより当たり前。上流階級は銃を持ったガードマンに守られた塀の中で暮らしている。

例えばフィリピンの外資系企業が集積しているITパークは塀の中に存在しているし、そこで働く人たちもガードマン付きの物件に住んでいる。インドではそれなりのショッピングモールに入るのに入場料取るところも。入場料を払えない層をシャットアウトするためだ。

めっちゃ稼げる少数の人たちと、取り残される圧倒的多数。グローバル化によって世界中の多くの国で経済格差が広がっている。

この社会の分断は治安を悪化させる。

1等船室のローズが3等の乗客が荒っぽく呑み踊るパーティに混ざったらレイプされてしまう世界。

よく勘違いされるけどバックパッカーの醍醐味は危険を乗り越えるスリルではない。

現地の人たちとの触れ合いや、常夏の青空の下で飲む安いビール。そういった喜びのために危険にさらされるのであれば、最早そういう場所は旅人が楽しく過ごすのに向かない。

安ホステルを転々とする3等雑魚寝の旅は、その国の治安を測る試金石だ。

経済を優先すると治安が悪化する

病気になっても気軽に医療を受けられる、公教育を無料で受けられる、誰でも真面目に働けば将来家を買うことができる。

経済成長は人々を幸せにしてきた。これは間違いない事実だ。

でも最近の経済はほんの一部の人がより稼ぐためのものになり、その副作用としてその他大勢の人たちを犠牲にするところがある。

地域社会は経済格差により上流と下流に二分され、日常生活で混ざり合わない人たちがいがみ合い治安が悪化する。

グローバル化と格差社会はもう止められないけれど、貧乏旅行のリスクが高まっている昨今の状況は旅人として非常に悲しい。