夜中に目が覚める。時計を見ると午前3時。
これはまずい兆候だ。この時間に目覚めるとその後しばらく再入眠できず、寝不足のボワンボワンな状態で新しい1日を乗り切る羽目になる。
だから頑張って寝返りを打ったり、瞑想を試みたり、雰囲気を変えるためにトイレに行ったり。
それでもやっぱり夢なのか現実なのかよくわからない薄い意識を保ったまま、結局無意味数時間が過ぎる。しかも特に脳の活性が落ちない時は、懐かしの名曲が頭の中で無限ループして脳が休息することを許してくれないことも。
そんなこんなで気づけば目覚ましが鳴る15分前。
よく漫画やアニメで目覚まし時計をうんざりして止めるのが最悪の朝として描かれるけど、本当に睡眠に困っている人は目覚ましが鳴る前に自動的に意識のスイッチがオンになってしまう。
朝イチにする行為がため息だとは。
暗たんたる気持ちで鉛のような体を起こし、いつものルーチンでモソモソと着替える。
ユルい仕事
僕の毎日なんてこんなもんだ。
大抵の日が睡眠不足に起因する体調不良。どんよりした人生。だからそれを見越してそんなボアンボアンの脳と重い体でもこなせる、楽な仕事に就いている。
海外就職して社会的な成功をつかんだように言われるけど、僕の現実は全然違う。
アメリカやドイツなどの欧米諸国も旅した僕があえて東南アジアで就職しようと思ったのは、日本や白人先進国には存在しない「給料安いけどめっちゃ楽な仕事」が外国人向けにもあるからだ。
本気の30%でもクビにならない仕事。もちろん給料は安いけどそれでいい。
無理して病気になるのはもうごめんだ。
自分の不満足な体調や苦手な作業をきちんと意識して、そのままでも無理をせず仕事を続けられることが何より大切。
これは僕が発達障害に絡めて海外就職を勧めている理由でもある。
発達障害の人生は体調不良との戦いだ。お金なんてぶっちゃけそんなにいらない。質素に慎ましく、でも無理せずラクに生きたい。
ところが日本ではたとえアルバイトでもきっちりカッチリ完璧な作業が求められる。しかもそれでいて給料は安い。
なんという地獄。
でもところ変わって東南アジアでは、給料が安いなら相応の安っぽい仕事していれば良い。サービスを使う立場になった時はイライラしたり怒り狂う事はあれど、それは僕がサービスを提供する立場になった時に楽をできると言う裏返しなのだ。
この事実を知ったときの僕の衝撃は計り知れない。これが労使間のフェアな関係ってもんだろう。
それはまさに後の人生観が変わるほどの発見だった。
アルコールドーピング
そんなわけで東南アジアに転職してからも相変わらず毎日が体調不良との戦いだけど、何とか折り合いをつけて仕事が成り立つようになった。発達障害の二次障害でもう絶対に鬱にはならない。
ところが人生とは、仕事だけじゃないんだなコレが。
ちょっと気になっている女子と食事をするチャンスもあれば、国際色豊かな友達とテニスで負けられない戦いをすることもある。最終的にはプロブロガーになりたいので、記事を書くときは真剣そのものだ。
こういうハズせない瞬間が人生にはある。
もう明日いくらボワボワグダグダになってもいいから、この時間だけはシャキッと覚醒していたい。
発達障害にとって、こういうハズせない瞬間に、確実に覚醒していられる方法を知っていることが重要になる。
僕の場合は酒だ。
ビールをプシュっと開けて「のどごし」など完全に無視して、とにかく早急に胃へ魅惑の液体を流し込む。食道の粘膜からすでにアルコールが吸収され、酵素が取り付いてアセトアルデヒドに代謝する。カルボキシル基がアルデヒド基に酸化されるのをリアルタイムで感じる。
そしてこの悪魔の化学物質が脳関門を突破し、脳を突き上げる。
この衝撃。
今までの脳を不快にしていた異物が雲散霧消する。考えを妨害していた脳の汚染が取り除かれ、錆びついていた歯車がミシミシと動き始める。
アルコールドーピング。
この瞬間から、僕の人生が始まる。
魅惑の液体によって活性化されると元気がなくてもテンションが上がるし、身体能力や場の空気を読む力もブーストされる。
「元気の前借り」をしているだけに当然副作用もあって、アルコールドーピングをした翌日はものすごい倦怠感と寝不足どころではない脳の不快感を抱えることになる。
体に負担をかけている事は明らかだ。
幸せの条件
でも僕はその方がずっと良いと思っている。
寝不足で1度も活性しないままぼんやりした時間を過ごすと、全然疲れないので深夜まで眠くならず、たとえ運良く寝られても睡眠の質が落ちる。
睡眠の質が悪いために翌日も眠れなくなる悪循環。
このループをどこかのタイミングで断ち切らないといけない。そのためにはアルコールドーピングをしてでも何かにシャキッと全力で取り組んだ方が良い。
そんなわけで外せないココ1番のイベントには僕はこっそりビールを引っ掛けてから参戦する。
はっきり言ってアル中だし、どこか挙動不審でさらに酒臭いために周りの人たちに迷惑をかけていると思う。あといくらアルコールドーピングしても、健康でシラフな人にはパフォーマンスでかなわない。
それにも関わらず「こいつはこういう人間だ」と理解して自然に接してくれる僕の周りの人たち。
彼らの温かい包容力のおかげで僕の毎日がある。
ラクな仕事。寛容でなかけがえのない人たち。そして僕のちょっとした「かんばり」。
今後世界のどこで生きていくのかわからない。でもこの3つのどれが欠けても充実した生活を送れない。
難儀なものだけど。
自分の幸せに何が不可欠なのかを20代のうちにハッキリ知ることができたのは、うつ病になった唯一の置き土産かもしれない。