僕が海外で暮らすようになって6年。
その間に大小いろんなトラブルに巻き込まれたし、日本人vs現地人の対立もたくさん見てきた。
もちろん犯罪に該当する事件に巻き込まれたらどこの国でも警察沙汰。
でも些細な利害をめぐって現地人とトラブると、大抵は1対1の交渉になる。そんな時に相手から有効な譲歩を引き出せず、結果として被った損害に泣き寝入る日本人の多いことよ。
日本人は交渉事に弱いと感じる。
この原因は揉め事を「解決する」という概念が諸外国と異なるからだと考えている。
具体的には「痛み分け」をせず白黒つけたがるのがそれだ。一方的に自分の要求を全て飲ませる方向で交渉した結果、相手が硬化して本来得られるはずの譲歩すら手放すことになる。
今日は交渉下手の日本人が、海外で利害の対立する現地人と交渉する時の話を書く。
白黒つけると負ける
外務省のラスプーチンこと佐藤優氏の代表作「国家の罠」。
北方領土返還に絡み鈴木宗男らと共に逮捕勾留された体験が本人目線で語られるんだけど、久しぶりに読み返したらあまりの面白さに興奮した。
最近の氏はアジテーターとして変なポジションにハマっている感があるものの、驚異的記憶力による回想がメインの著作はどれも面白い。本作の他には「私と先生」という埼玉郊外で育った少年時代の思い出話がお勧め。
氏が関わったロシア(旧ソビエト連邦)との北方領土問題は、日本の交渉音痴の典型だ。
そもそも日本と旧ソ連が国交正常化するプロセスでは二島返還という流れで両国が動いていた。それなのに土壇場で日本側が全島返還を主張したため交渉が頓挫。領土問題を先送りすることで合意して日ソ共同宣言に至った。
その結果今日まで北方領土は1つも返還されていない。
日本の手のひら返しには並行して沖縄返還を交渉中だったアメリカ政府の介入があった説が有力。だけど結果として現実的な落とし所に政府内で意見をまとめきれず、日本は国益を大きく損ねた。
国力をもっていた当時の日本と国交正常化を望むソ連。絶好のタイミングで現実的な「痛み分け」が出来なかった外交の失敗だ。
それから半世紀に近い時間が経ち、佐藤優氏や鈴木宗男氏が二島返還に再び奔走する。その結局両氏とも逮捕されてしまうわけだけど…。
でもぶっちゃけ時すでに遅しだ。
少子高齢化で日本の離島が軒並み限界集落化する昨今、いまさら北端の島が国土に復帰したところで有効活用できるだろうか。後継者のいない漁業は北方に新たに広がった領海を活かせるだろうか。中国の領海侵犯に奔走する海上保安庁に北方で新たに割ける戦力があるだろうか。
たとえ理不尽であっても適切なタイミングで「痛み分け」に持ち込まないとジリ貧になり結局「全損」を被る。
自分の主張をすべて飲ませて白黒つけようとすると交渉で負ける。
ゴネ得を目指すと負ける
つい先日、僕も中国人と思しきお兄さんと交渉しなければならない事があった。
シンガポールの秋葉原「シムリススクエア」。正規代理店では3日かかるスマホの修理も、シムリムに持ち込めば1/3の料金なのに30分でお渡し。
ところがこのシムリススクエア、魔窟だ。
要は安かろう悪かろう。ここで友人のスマホを修理したんだけど、わずか3日で再び壊れてしまった。いわゆる「なにもしてないのに壊れた」ってヤツ。正規の店ならちゃんと無料で対応してくれる状況でも、魔窟シムリススクエアではひと悶着を避けられない。
保証もなにもないけど、なんとか再び修理させる必要がある。
バトルだ(=^・・^#=)
最初はこちらに全く非がなく初期不良なのだから無料で修理し直すべきだと主張した。でも店側は衝撃で壊れているから初期不良ではないの一点張り。
バトルは平行線。
この状況では我ら客側が圧倒的に不利だ。故障の原因に関してなんの証拠も無いのはお互い様だけど、保証がない以上店側に修理する義理がないのもまた明らか。
そこで僕は家伝の宝刀「ゴネ得」を発動。
とにかく諦めず繰り返し正当な主張をし続ける。感情的に怒鳴り散らしたら警備員を呼ばれてしまうけど、理性を保っている以上店側も対応せざるを得ない。要はめんどくさくなって首を縦に振らせる作戦だ。
ところがこれが通用するのは日本くらいなもん。
特にここは毎年人口の3倍もの観光客が訪れるシンガポールだ。近所の人に良いサービスを提供して常連になってもらうより、海外の爆買い一見さんを取り込んだ方が断然儲かる。
だからクソ客には塩対応で二度と来ないようにするのが合理的なのだ。
勝負あり。僕らの負けだ。
そんな風にここで諦めちゃう人が多いんだけど、ここからが本番。あくまでこっちの主張を100%飲ませるのに失敗しただけ。
したたかに妥協点を探って「痛み分け」に持ち込む。
結局、交換部品の原価の半分それに工賃の半分を支払って、再度修理してくれることになった。本当は工賃も無料にしたかったんだけど、ここは妥協せざるを得なかった。
相手から最大の譲歩を引き出す
海外で理不尽な対応をされた場合、喧嘩腰で相手を打ち負かしにいくのは悪手。感情的になるともっと大きなトラブルに発展するリスクもあって危険だ。
交渉の目的は相手に勝つことではない。
相手から最大の譲歩を引き出して、被った損害が出来る限り補償されるように頑張るのだ。そのためには適切なタイミングで現実的な「痛み分け」を提案するのが有効。
僕の場合これは中華文化圏やインドで有効だった。
絶対譲れない部分で相手の譲歩を引き出す、したたかな交渉をしていこう。