南国の青空が綺麗で会社をサボった話

青空を見上げると落ち着く。

地上には困ったことがたっぷり降り積もっているけど、あそこから見たら僕も僕の抱える悩み事も、視認できないほど小さい点に等しい。

もう全ていい加減でいいや。

僕が頑張ってキチンとやろうと手を抜こうと、世の中は意に介さず今日も平穏に廻っていく。だから何事も自分が満足するように受け流せばいい。

空を見上げると物事がシンプルになる。

特に平日昼間の青空は格別だ。

「言の葉の庭」という雨の日に新宿御苑でサボるお話があるけど、僕は会社をサボるなら断然よく晴れた日がいい。

迷わず上司に今日は欠席する旨の電話を入れた。

カフェ

シンガポールの朝は天気が良い。

それから昼にかけて雲が徐々に増えて、夕方に雨が降る。だいたい毎日こんな感じ。

だから会社をサボった日は寝坊せず、南国の朝の美しい時間を楽しむ。あとで眠くなったら曇ってから昼寝すればいいんだ。

開店したばかりの近所のカフェのテラス席。

赤道直下のこの国では、季節を問わずだいたい7時ごろに水平線から朝日が昇る。だから8時くらいの時間だとまだ太陽が低く、薄雲と街路樹にフィルターされた柔らかな陽光がフワフワと降りてくる。

襟付きシャツにスラックス姿の人たちが足早に出勤していく。南国なのでネクタイを締めている人は1人もいない。そんな中、ビシッとしたタイトなワンピースを着てるのに足元はビーサンの女性がペタペタと駅に向かっていく。

シンガポールのそんなユルさにホッとする。

本来は僕もあそこに混ざるはずだった背徳感。その感情はすぐに優越感に変わり、なんだか楽しくなってくる。

生きててよかった。

しばらくすると道行く人々の足取りが心なしかゆっくりになって、いつの間にか通勤時間が終わったことに気付く。巻き毛がモジャモジャした高そうな犬を連れて歩く人もいる。

太陽が高く昇ってカフェの植木から注ぐ木漏れ日がギラギラと眩しくなってきた。

ビールの時間だ。

「おぉ今日は休みかい?」

近所の個人商店の褐色の肌にデカい目が印象的なインド系オッチャン。僕がビールを買いに行くと必ず彼がレジに立っているんだ。彼は学校をサボったイタズラ坊主を見るようにニヤニヤと会計をしてくれる。

まぁおんなじようなもんだな。

そうさ、今日僕は「社会から降りる」ことにしたんだ。

ホーカー

ビールを買った。

雲も増えてきたし次は散歩の時間。雲が守ってくれないと南国の強烈な日光で黒焦げになっちゃうんだ。

雲の切れ間から突き刺す強い日差しに照らされたシンガポールの下町は、プラナカン建築特有のカラフルなペイントを引き立てる。

国父リー元首相の肝いりで植えられた街路樹も濃い緑に輝いて、根から勢いよく水を吸い上げる音が聞こえるようだ。

当てもなくテクテク歩いていくと腹が減ってきた。ここらでブランチと洒落込もう。

灼熱でさっそく緩くなり始めた缶ビールを勢いよく飲み干す。そして目についた昔ながらの屋台村ホーカーに入る。

30分くらい歩いただけなのに暑いからか結構疲れた。安っぽいプラスチックの椅子に腰を落ち着けると、なんだかじんわりと安心する。

シンガポールのホーカー飯といえば海南チキンライスが有名。でも僕はなんちゃって糖質制限中の身。

大丈夫。実はチキンライスの蒸し鶏だけを注文することも出来るんだ。今日はこのおつまみセット的なメニューにしよう。プリプリの蒸し鶏に、皮をパリパリに炙ったアヒル肉も追加。

するとイマイチ似合ってないピチピチのコスチュームに身を包んだオバちゃんが近づいてくる。彼女はビール売りだ。おつまみセットを頼んだ人がビールを頼まないわけがない。

その通り。

定番のタイガービールも良いけど、塩っけのある鶏肉に軽い喉越しが負けそうだ。ここはABCという地元ブランドの黒ビールを注文。強いコクがあるので塩っぱい食べ物によく合うんだ。

隣の席では老夫婦が中華粥と炒めたビーフンを仲良く分け合っている。あんな風に穏やかに歳を重ねられるパートナーがいつか僕の前にも現れるのだろうか。やれやれだぜ。

屋台の人たちも本格的に混雑するランチタイムを前に、ケータイ片手に賄いをかっこんでいる。

そうこうしているうちにホーカーが騒がしくなり始めた。12時になったんだろう。

この地区は工場街なので作業着やランニングシャツにつっかけという出で立ちのオッチャンが多い。あと15分歩くだけで高層ビルが立ち並ぶシンガポール屈指の金融街なのに、ここだけは時が止まったように昔のまんまなんだ。

社会から降りている時間

僕はこの社会の一部だ。シンガポール社会の一員として暮らせる毎日に感謝してる。

でも。

たまには与えられた役割から降りて、ちょっと離れた位置から自分の街の何気無い日常を眺めてみる。

そういう贅沢な時間を持つと、自分が暮らす街と過ぎていく時間を愛おしく思えるんだ。

それにはよく晴れた平日の青空が欠かせない。

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