今月いっぱいで雇い止めになることが決定し、僕から担当業務が完全に引き剥がされた。それにも関わらず退職日まで時間があるので仕事せずとも出社せよという奇妙な飼い殺し状態。
だからもう非常階段に逃げ込む必要はない。開き直ってデスクでおおっぴらに昼寝して堂々と本が読めるぜぃ。
とは言えまぁ、こんな状況じゃ気合い入れて新しい本に取り組むエネルギーは湧かない。それでここ数日はもっぱらKindleアプリに眠る昔の本を読み直して過ごしている。
そんな暇があるならブログ書けよって話なんだけど、どうにもここ数日はインプットに徹したい気分だったんだよね。考えを表現したい欲求よりも知識を吸収することに快楽を覚える感じ。
そんなわけでTwitterを追っていて最近ちょっと引っかかっていることがあり、モヤっとした頭を整理するために2冊の本を読んだ。
1冊目は鈴木大介「最貧困女子」。
人類最古の商売と言われる性風俗産業は、太古の昔から困窮した女性の最終的な生きる場所だった。ところが性がカジュアルになり供給が増え、なおかつ男性の低収が減り草食化した結果需要が減った。だから近年の日本は人類史上おそらく初めて「若い女性」というだけでは身体を売れない状況にあるという考察が衝撃的。
本書はそんな時代に困窮状態に陥っている女性にフォーカスし、彼女らに対する真摯かつ精密な取材で出版当時話題になったノンフィクションだ。
僕が興味深かったのが冒頭の貧乏と貧困は違う、「幸せな貧乏」はあれど「幸せな貧困」は無いという部分。これは本作全体の通奏低音となる考え方だ。
貧乏は単に低所得であるという意味。だから「ヤンキー」のようにあまりおカネが無くても家族や友達と勝手知ったる地元でワイワイやっていれば不幸ではない可能性がある。一方で貧困は低所得に加えて家族や友人や地域の人間関係を失い、さらに次に挑戦できない程の精神的に困窮している状態。
このような定義のもとで幸せな貧困などありえないというのだ。
そして貧困に陥る原因として「3つの障害」と「3つの無縁」を挙げている。
「3つの障害」とは精神障害、発達障害、知的障害を指す。精神障害を持っていると安定した就業が難しく、さらに発達障害は安定した人間関係を構築するのを困難にする。それに加えて知的障害があれば自立して生活するのが難しい。
「3つの無縁」とは家族の無縁、地域の無縁、制度の無縁を指す。いわば困った時に頼れる人やいざという時に駆け込める安全地帯を持たず、さらに正当な福祉制度からも見放された状態。
言葉は悪いけど「3つの障害」を持っている人は、貧乏でウザくて扱いにくい上に鈍くさい。これが原因で周りから人が離れていき「3つの無縁」に繋がってると読めた。
大凶遺伝子
2冊目は橘玲著「言ってはいけない」。
ユダヤ人はIQが高く学問やビジネスで成功しやすい。黒人は運動神経とリズム感が良いのでスポーツやジャズでスターが生まれる。中華系の人は商売に強く異国に適応する能力が高い。
こうした人種や遺伝子が人生の「成功」に関わっているという話はよく聞く。その一方で「能力が劣る民族」や「障害は遺伝する」という逆の話題はタブーとされる。犯罪歴のある親から産まれれた子供は将来犯罪者になる可能性が優位に高い、みたいなことだ。
ここに学術的な根拠を示しながら切り込むのが本書である。
本書によると後天的な努力や経験で獲得できるのは語学力くらいのもので、遺伝子由来で苦手なことは努力してもあまり伸びないらしい。衝撃的なことに知能や能力は負の部分も遺伝する。中には数学や音楽みたいに親から遺伝子経由で受け継いだ才能がほぼ全てという「残酷な能力」もある。
それに加えさらに衝撃的なことに、将来精神に障害をきたす可能性さえも遺伝子で強く決まっているという。
最貧困女子で述べられている「3つの障害」が、もし遺伝子由来で決まっているとしたら…。
ヤバい(=^・・^;=)
そこで最後の砦になるのが福祉だ。
ところが「最貧困女子」では現状の福祉制度や福祉施設が困窮した女性の受け皿として充分に機能していないことが克明に述べられている。
さらに「言ってはいけない」では米国で行われているアファーマティブ・アクションの失敗が取り上げられる。黒人の成績に下駄を履かせて大学進学や公務員登用を有利にしているにもかかわらず、黒人社会の貧困を改善するのに寄与していないと。
生まれ持った遺伝子で人生が決まり福祉にも頼れない世界。
これは絶望的なことだ。
「無敵の人」の正体
そこでふと気づく。
最貧困女子がいるなら、最貧困男子だっているはずじゃないか。貧乏でウザくて鈍くさくて扱いにくい、男子。しかも女子と違って身体を売るなら臓器を売るしか無い。
無敵の人…。
日本を騒がせている散発的な通り魔事件。毒親家族に未練は無く、友達も恋人も資産も社会的地位も、失うものをはじめから何も持たぬ者。
「遺伝子おみくじ」で大凶を引き「身体ガジャ」でイケメンパーツを引けず、しかもそれに加えて氷河期世代という日本の絶対暗部に産まれてしまった者。
産まれた時のスペックでその後の人生の多くが決まってしまうのだとしたら、追い詰められても福祉が役に立たないのだとしたら、彼らはいったいどうすれば凶悪事件など起こさずに幸せに暮らせたのだろう。世界の全てに復讐したい彼らの絶望をどうすれば取り除けるのだろう。
発達障害持ちの僕は今週いっぱいで職を失う。
「無敵の人」の正体は明日の僕かもしれないし、あなたかもしれない。