カネは要らない危険な人たち

無職なので昼間からビール片手に街をブラついていると、実に様々な人たちが声をかけてくる。

例えば日本では鼠色のスーツを着た風俗関係のキャッチが多い。ってかアイツラって全国指定の制服を支給されているわけでもないだろうに、なんでどの街でも同じ格好に収束するんだろう。もっとTシャツにスポーツ刈りみたいな爽やか系キャッチとかいれば風俗産業の印象も変わるだろうに。あの無駄に威圧的な風貌のせいで逃している潜在顧客は多いと思う。

そんな話はどうでもいいとして。

東南アジアではもっぱら物乞いに声をかけられる。世界有数の金持ち人口を誇るシンガポールでさえ中華街なんかを昼間からフラフラ徘徊していると、同じようにフラフラしている老人に「$2くれ」などとカネをせびられる。近所に貧困層向けの高齢者住宅があるのだ。格差が急速に拡大していく世界では、ピケティ教授の名を出すまでもなく国民の平均的豊かさなど意味を持たない。

それでも僕が外国人とわかると瞬時に英語に切り替えてくるあたり、さすがはやっぱりシンガポールの物乞いだ。

これが路線バスでたった1時間移動しただけで物乞いの風景はずいぶん変わる。お隣の国マレーシアでは社会のマジョリティを占める人種が変わるので、僕は見た目で明らかにガイジン。それでも物乞いに英語で話しかけられることは稀だし、むしろ曖昧なジェスチャーでカネをくれと訴えかけられることが多い。物乞いが満足な教育を受けていないだけでなく、軽度の知的障害をもっていそうな人が目立つのは日本のホームレスにも同じ印象を受ける。

カネは要らない危険な人たち

コイツは僕の何が欲しいんだろう。街で声をかけられたときはたとえ言葉が通じなくてもその人の目的を考える。

まぁ大抵はカネだ。

風俗のキャッチも居酒屋のバウチャーを配るおねぇさんも、最終的には給料をもらうために頑張っている。物乞いほど直接的でなくても、突き詰めればカネのために笑顔を振りまき、カネのために思ってもいなことを大声で叫ぶのだ。僕は10年以上努力したけど結局企業の利益や微々たるカネのために一生懸命になることに失敗した。だから仕事で与えられた役割を器用にこなしている人たちに街で声をかけられると複雑な気持ちになる。

でもカネがほしい人たちはわかりやすいからまだ良い。しつこい場合も「サラ金が取り立てに来ちゃってw おたくで住み込みない?」とか言えば僕からカネを取れない以上それで終わる。

そういう意味で街で声をかけられて一番困るのが宗教だ。

日本でも爽やかにマウンテンバイクで徘徊する白人2人組から声をかけられた人は多いだろう。ああいう輩がタチが悪い。

まぁ宗教家と言えどほとんどは新しい信者(カモ)を獲得した褒美や、宗教組織内での地位のために声をかけているのが透けて見える。村上春樹「1Q84」に出てくる休日に子供まで動員して家々のチャイムを鳴らすジジババとかね。そういうのは無視すればいい。カネにしろ地位にしろ彼らには具体的な目的があるのだから、僕からそれを得られないとわかれば去っていく。風俗のキャッチと同じだ。

ところが宗教家の中にはごく稀に、コイツは本気で僕の幸せを願って勧誘しているのかもしれないと感じるのがいる。この人間は明日インフレが起こって通貨が紙くずになってもこの場所で折伏に勤しんでいるのではないかと。見ず知らずの人にカネをくれと言われたら「なんで無職の俺がお前なんか支援せにゃならんのかボケ!」で済むけど、見返りを本気で求めずに僕の幸せを願っていると言われたら…うっちゃる言葉に窮する。

「あなたのため」

危険だ。

心の隙間は手を動かして埋める

満たされない承認欲求。漠然とした将来の不安。孤独。

無職はなにかと不安になることが多い。周囲の人間と全く違う日常を送っていると、たとえそれに幸福を感じていても「俺、大丈夫だろうか」などとふとした瞬間に心細くなるものだ。まぁまだクビになって10日だし無職の修行が足りないのかもしれない。

だとしても、そんな無職の心の隙間にヌメヌメした触手を突っ込んで、無理やりこじ開けようとする宗教のコミュニケーションはとても危ない。「これでいいのか」と悩んでいる人に「これが正しい道です」と示すことほど簡単なマインドコントロールはない。ひとたび心の隙間に宗教のプラグを差し込まれたら、後は彼らの言いなりにサリンとかバラ撒く人間になりかねない。

宗教のヌメヌメした触手に対抗する術は、毎日なにかに手を動かし続けることだ。

たとえ1日1000円ぽっちでもブログを書いて収入を得る。昨日は理解できなかった機械学習の評価関数を使えるようになる。有り余る潤沢な時間を生かして忙しい友達のスケジュールに合わせて話をする。

無職といえど怠惰に何もしないでいると将来の可能性が逓減して漠然とした不安を呼ぶ。しばらく勤労する意欲は戻ってきそうにないので、せめてこんな具体的な行動により心の隙間を1つ1つ埋めていこうと思った。

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