久しぶりにデパスを飲んでしまった。
週末はどうにも不安感がMAXで、それでいて大切な予定がどどっと入っていたこともあり、睡眠の質を重視して寝る前にデパスを投入したのだ。0.5mg。インドから個人輸入したジェネリック1錠の半分だ。
デパスを完全断薬してから、かれこれ1年ぶりだった。
飲んで早速副作用の方が先に来た。背中の肩甲骨の間くらいが火照り、酷い肩こりのような不快感で思わずサロンパスを貼った。この反応は筋肉量みたいな体質によるようだ。以前デパスを飲んだことがある細身の女性は身体が冷えてしょうがなかったという。
この副作用はフルニトラゼパムという強力な睡眠導入剤と感覚的にほとんど同じ。過活動している脳の興奮回路をシャットダウンする過程で、体調の不快な部分が強調されるような症状が出るのかも知れない。更に心の弱い部分を押さえつけている「理性」が弱くなるらしく、僕の場合は人恋しさみたいな孤独感が浮き彫りになる。
長年飲み続けてしまった僕は身体に耐性が付いてるのか、投薬を初めた10年前はものの3分で訪れた眠気がなかなか来ない。それでもそんな不快な状態に30分も耐えると、本来の薬効が来た。
筋肉にチカラが入らない全身が弛緩した感覚。脳の回路が混濁したような人工的な眠気。副作用がキツイけどやっぱりデパスはよく効く。そのままベッドに倒れて翌朝までぐっすり眠れた。
無職とデパスの融合
思えば職がない状態で抗精神病薬を飲んだのは初めての事だった。
残薬感で朦朧とするけど出勤する必要がないので無限に惰眠を貪ることができる。それでも日付がまわる前には入眠していたので朝の9時にはスッキリと起きられた。10時間睡眠。これはデパスの半減期が6時間程度であることを考えると妥当だ。
とはいえ血中の有効成分エチゾラムがゼロになるわけではない。理論上投薬量の1/3から1/4くらいはまだ肝臓で分解されたり尿として排出されることなく僕の体内に残っているはずだ。
でもこの感覚が心地良い。
まず脳のザワザワと表現している無駄な雑念、ADHD的な多動が抑制される。そしてなによりメンタルを消耗させる聴覚過敏が明らかに軽減する。いまシンガポールは高層ビルと新しい地下鉄の建設ラッシュなのだけど、普段なら頭蓋骨に響く工事現場の喧騒を臆せずに通過できるのは正にアメイジング・グレイス。たぶん精神安定剤であるデパスが程よく残り、無駄にワチャワチャ働いている発達障害脳を沈静化してくれているんだと思う。そのため意欲はまるで無い。小春日和の小川に流れる若葉のように、穏やかな気持ちで1日が過ぎていく。
なんの悩みもない静かな時間。
その昔、元ウツ友であり元彼女でもあるメンヘラ女子が、無職で抗精神病薬にハマっていた感覚を今なら理解できる。当時僕は生きるため、仕事に耐えるために投薬していたけど、それと仕事関係なく生活の質を向上させる投薬はぜんぜん違うのだ。マイナスをゼロにするのではなく、ゼロをプラスにする薬。抗精神病薬依存の入口になるであろうこの使い方に僕は目覚めてしまった。
そしてこれに味をしめた僕は、惰性で次の夜も0.5mgデパスを飲んでしまうのである。
僅か2日の禁断症状がコレ
デパスの強い依存性を僕は痛いほどわかっている。去年経験した禁断症状のツラさはもう二度と経験したくない。
そう思っていたのに。
クスリなしにはもうぜんぜん寝られない。圧倒的に寝られない。当然夜になれば疲れて眠気は来る。でも疲労感と睡魔でグラグラになるにもかかわらず、なぜか「意識のスイッチ」がOFFにならない。
あー、あー、あー。
知ってる。
デパスで得られる心の平穏は、未来からの前借りなのだ。そして精神安定剤に依存すればするほどメンタル借金の利率は重くなり、過去にもう何年も依存していた僕もなると僅か2日投薬しただけでトイチが如く完全に返済するのに幾夜も不眠に耐えることになる。
それで今日は朝から脳がボアンボアン。
寝てるんだか起きてるんだかわからない、常に薄っすら意識があって自分の意思でいつでも夢を終わらせられる状態で朝を迎えた。ベッドに居た時間は10時間くらい。身体が重い。とりあえず猫のように伸びをする。上体を起こすのがツラい。
それでも1日を始めないと。
この状態でずっと不純物で混濁した意識を抱え、ベッドの上でのたうち回ることもできる。っていうか結構強い意志がないとそうなってしまう。ところがこれこそが抗精神病薬依存の恐ろしいところで、太陽が登っている特に「朝」と呼べる時間に活動を開始しないと、ものすごいスピードでどんどん体内時計がズレていく。そして普通に働いている人たちと一緒に活動できなくなる。
そうするとあっという間に社会的に孤立する。
恐ろしいことに完全に昼夜逆転するまで1週間とかからない。そうするとテニス仲間や一緒に飲みに行くような愛すべき人たち、それこそ僕がシンガポールで6年かけて築いてきた人的資産を失ってしまうんだ。みんな優しいから僕が昼間起きていられなくてもそばにいてくれると思いたい。でも遠距離恋愛のカップルが儚く散るように、睡眠に時差が生じると多くの人間関係は脆くも崩れるものなのだ。
僕は経験的に知っている。
だからデパスの禁断症状に苦しみつつも、今日は朝からボアンボアンな頭で積極的に人に会っている。もうこうしないとベッドで生きる屍になるだろう。元の軌道に生活を戻さないと、無職なことも手伝って僕は社会的な資本を一瞬で失ってしまうだろう。
それは嫌だ。
今から重い体を引きずって多国籍ASEAN親善テニスに行ってくる。薬物依存を断ち切り、積み上げてきたものをより強固にするために。