トラブルに真正面から対処するのはダルい

無職になってから夜のカフェに頻繁に行くようになった。

前職は始業が早かったので6時起きを5年も続けていたんだけど、本来夜型の僕が一番活動的になるのは日付を廻ったくらいの深夜なんだよね。幸いシンガポールの都心部には24時間営業していてファミレスみたいに使えるカフェがポツポツと存在する。

今夜は疲れて早く寝たんだけど、残念なことに中途半端な時間に目覚めちゃって再入眠出来そうにない。だからパソコンを抱えてまたノコノコやってきた。ここでしばらく作業して、眠くなってきたら朝方にもう一眠りしよう。

こんなとき翌日を気にせずに活動できるのは無職の特権だ。

深夜のカフェには24時間営業している意味を疑うほどに客が居ない。店員さんもスマホゲームに夢中だ。こんなんで利益が出ているのか心配になるけど、まぁ一瞬心配するだけで実際に注文するのは一番安いノンカフェインのドリンク。収入が無いんでね、許してくれや。

観光地の駅前に位置するこのカフェは、昼間は席を確保するのに苦労するほど混雑する。それだけに全席選び放題の深夜に来ると、まるでディズニーランドを貸し切りにしたような優越感に浸れる。

無職バンザイ!

深夜の定位置である道路に面したカウンター席を確保。昼間は観光客のセルフィーに写り込んだり歩行者と目があったりして気不味いったらありゃしない席だけど、一転して深夜は疎らにタクシーが通り過ぎるだけになる。道を挟んで林立する高層ビルもほとんど電気が消えてゴーストタウンのよう。

ここは異世界好きの僕にとって最高にタギる場所だ。

改善は効率が悪い

人類があらかた消滅したような闇の街を堪能できるだけでなく、この席にはなんと電源がある。寝られない夜の作業にまさにもってこいだ。そう思ってMacBook Airのアダプタを刺したんだけど…電気が来ない。

ちゃんと刺さってないのかとカウンターの下を覗き込むと…実にシンガポールあるあるな状態になっていた。

まず2口あるコンセントのうち、1つは昔からずっと壊れている。どういうわけかプラグが刺さらないんだよね。だから1日中この席に座る全員がもう1つの口を集中して使うことになる。それで劣化して2つ目も壊れちゃったらしい。

ここでポイントは、店員さんに改善を要望するにはエネルギーと時間を消費するにも関わらず、後日業者が来てコンセントが修理された時にその恩恵を受けるのは別の人なのである。だから滞在時間が短いカフェだけに誰も貴重な休憩時間を犠牲にしようとしないし、例え故障を報告したところで店員さんも「こっちのコンセントを使ってね」といって修理依頼を出さない。店員さんとてバイトである。修理業者を手配しなくても、同じお客さんに後日修理されてないことを咎められる可能性は低い。

問題を抱えた時、トラブルに真正面から対処するのは効率が悪くダルいのである。

だから完全に壊れて今夜の僕みたいに誰かがババを引くまで問題が放置される。

工夫して改善を回避

でも僕は本当にババを引いたのだろうか。

工夫すればなんとかならんだろうか。

最初に考えたのは、昔から壊れている方のコンセントになぜプラグが刺さらないのかである。もし刺されば使えるかもしれない。

シンガポールのコンセントは英国が誇る角型3本ピンタイプ(BF)を採用している。

これは野球のホームベースのような形をした平たい本体から、角ばったゴツいピンが3本生えているシロモノ。電源として使われる2本にアース線を加えた3本なんだけど、これが世界に数あるプラグの形状の中でも実にクソ設計である。

まずイギリス紳士がその安全性を誇って止まないのがヒューズの存在。ホームベース状のプラグに直接ヒューズが仕込まれているので、もし落雷なので過大電流が来てもプラグが身代わりになることで電子機器本体を守るのだ。ところがヒューズってデリケートな部品である。とりあえず衝撃ですぐ壊れる。電源ケーブルが床に落ちただけで壊れるとか意味不明だ。だからシンガポールで家電製品が突然うんともすんとも言わなくなったら、ムスタファに行って電源ケーブルだけ交換すれば本体は無傷な可能性が高い。ちょっと知識があればヒューズだけ交換することも可能だ。

現代にもしシンガポールが戦争に突入したら、軍事設備のコンセントを床に落として負けると思う。それくらい英国タイプの電源ケーブルはよく壊れる。

次にこのホームベースみたいな平べったい形。平たい板から鋭利なプラグが3本も突き出している。忍者の武器「マキビシ」みたいじゃないか。しかも電源ケーブルって床に転がってるもんでしょ?実際、踏んづけると視界が白くなるほど痛い。英国紳士が家の中で靴を脱がないのはプラグを踏む危険があるからだと僕は確信している。

現代にもしシンガポールが戦争に突入したら、兵士が裸足で電源ケーブルを踏んで負けると思う。家の中で靴を脱ぐシンガポール文化に英国タイプのコンセントは危険だ。

そして最もクソ設計なことに、この3本のプラグ、ゴツい見た目とは裏腹にポッキーみたいに折れるのである。しかも壁に埋め込まれたコンセントの中で…。僕は「中折れ」と呼んでいる。こうなるともう駄目。詰まっちゃってそのコンセントは使えなくなる。でも一番長いアースプラグだけは例外で、これが壁のコンセントに詰まっても、もし刺されば残り2本からちゃんと給電される。

ビンゴ(=^・・^=)♬

深夜のカフェのコンセントをよく見たら、誰かのアースプラグが中折れして詰まっていた。それで手持ちの変換アダプタを電源供給用の2本の穴に逆差しして、無事にMacBook Airを使えた。シンガポールの電源は交流なので逆差ししても大丈夫なのだ。

というわけでこのコンセントはまだ使える。原因を特定できた人だけね。だから僕も故障を店員さんに報告しなかった。

トラブルに真正面から対処するのは効率が悪くダルいのである。