ここ1年ほど絶賛婚活中のシンガポール男子くん(30)。彼とは毎週テニスをしている仲なんだけど、どうにも出会い戦線に異常アリな感じ(=^・・^;=)
独身だと公団住宅を買う時に不利になり、結果実家で一生暮らすことになってしまうシンガポール。両親とあまり上手くいっていない彼みたいな人にとっての「結婚」は、僕のようなお気楽無職野郎には理解できないほど重い意味を持つ。
大手のお見合い仲介業者に登録している彼は、そのサービスを通じてマッチングされた女性に月に1人くらいのペースで合っている。それでも一向に彼女が出来る気配が無いばかりか、紹介された女性とその後逢ってすらいない様子。それで気になって何がダメだったのか尋ねたんだけど。
「将来を考える。朝起きて隣にこの人がこの顔で寝ている。翌日も10年後もずっと、目覚めて最初にこの顔を見てから1日が始まる。そうと思うとゾッとするんだ」
思わず持っていた缶ビールをテニスコートにぶちまけて笑い転げてしまった。いったいどんな顔なんだよ(=^・・^;=)
彼はメンクイなのでブスは受け付けないという。
でもさ、器量が良い女性はそれだけでモテるから、わざわざ結婚相談所になんて登録しない。それにあと10年もすれば美人だろうがブスだろうがタルんだBBAになって、俺達はうす汚いオヤジになるんさ。ほら、あそこで犬を連れているオバサン、彼女が若い時に美人だったかなんて、もはや誰も気にしないだろう。10年やそこらの我慢だ。見た目にはとりあえず目を瞑って、趣味があって会話が弾むような女性ととりあえずデートするような関係になったらどうだい?
でも彼は会話が上手ではないし、そもそも無意味なコミュニケーションが好きじゃないという。だから実家を出て自分の家を買うために一緒に共闘出来るような「美人」がいいんだそうな。それに今の時代とりあえず運動して食事制限して痩せて、その上で化粧すれば美人はある程度作れるというのが彼の持論。
美人になる努力をしないのは怠慢であり、性格の問題だと。
でっぷりとした「三十路腹」に炭水化物の塊を注入しながらそれを言うのはどうかと思うけど…。
男女の分断
キリスト教白人先進国でモテない童貞男子が過激化して女性を殺している。クルマで女性の集団に突っ込んだり、銃規制がユルい国では高校でティーンが女性を標的に乱射事件を起こす。
彼らは外見と社会的地位に恵まれなかった自分たちを、非自発的禁欲主義者を意味する「インセル」と自称する。
曰く、正当な人権である性的満足を得られないのはフェミニズムや女性ばかりを優遇する社会のせいであり、テロ行為でこれに抵抗するというのだ。そして自分がモテないのは遺伝子のせいであり自分の問題ではないとしてその無差別殺人を正当化する。
この事実を知った時、すごい違和感があった。
もしモテない僕が女性を皆殺しにしようと企てたとしても、いつものカフェで笑顔で対応してくれるあの女は殺しちゃマズい…それにオンラインゲーム仲間の根暗ちゃんも除外だ、まぁ直接あったことないけど…それに飯屋のおばちゃんも良い人だし殺しちゃまずい…。あぁお隣に住んでる女も5年も朝挨拶してるし悪いやつじゃない…。
めんどくせぇ、モテないのはムカつくけど女を殺しても何も幸せにならねぇ!
日常生活で女性と少しでも関わりがあれば、女性からモテはやされなくても無差別に殺したくはならないと思うんだ。
モテない男性がテロリスト「インセル」になってテロを起こす背景には、男女の強烈な分断があると感じた。
分断が憎悪を凝縮する
婚活中のシンガポール男子くんが結婚して購入しようとしているのはHDBと呼ばれる公団住宅だ。
シンガポールは慢性的に住宅難にあるので、政府直轄の組織によって開発されたHDBは国民への公共福祉のような側面がある。そして割安で購入できる反面、入居するには独身者は35歳になるまで待つ必要があったり、購入する階やロケーションを自由に選べなかったり、いろいろと制約がある。
その制約の中でも実にシンガポールらしくて 興味深いのは、中華・マレー・インドという3民族が偏りなく入居するように部屋割りされることだ。
これは民族間の紛争を避けるために有効だと思う。
仮にインド系ばかりが住む棟とマレー系ばかりの棟があったら、相慣れない不満が民族間に蓄積してしまう。「あの建物は朝から爆音で音楽を流す」「1日中モクモクなにか燃やしてお祈りしている」「徒党を組んで力尽くで止めさせよう」みたいな。
分断は憎悪を凝縮するのだ。
でも各民族が満遍なく混ざって住んでれば、文化の違いによるそうした不満は「お隣さん本人」に向かう。人が密集して暮らしていれば必ず摩擦が起きる。それが違う文化を持つ他民族であればなおさらだ。その不満を個人間の問題に散らし、民族意識から遠ざける工夫。
実際にお隣さん問題が絶えないので不満を持っている人は多いけど、世界有数の人口密度で暴動や紛争を避けるのに有効に機能していると感じる。
男女の分断を解消する
彼はそのマッチング業者以外にも出会系アプリをいくつか利用して、まだ直接会うには至っていないものの、チャットしたり女性と関係を深めようと奮闘している様子。
でも僕からすると、いきなり男女のお付き合いを前提に知り合おうとするのに違和感がある。まるで男性ばかりが住む公団住宅から、距離が離れた女性専用棟にアプローチしているような…。
女性の容姿に異常にこだわる男性、男性の収入に異常にこだわる女性。異性をスペックでだけ評価して人間として扱っていないという意味で、彼らにインセルと同じ「異性嫌悪」を嗅ぎ取ってしまう。
まずは日常的に女性と関わる機会を増やし、女性との分断を解消するのが先決じゃないか。そうすればその中から友達として仲良くなる女性も現れるだろう。
お付き合いはその先にある人間関係だ。