シンガポールの外資ホワイト企業と育児休暇の不都合な真実

日本で働く女性が妊娠した場合、制度上認められるべき産休や育児休暇が簡単に取れないばかりか「マタニティハラスメント」という嫌がらせを受けることがあるらしい。保育園が保育士に「妊娠順番制」強要し、守らない場合は制裁を加えたというニュースを読んだけど狂気しかない。

子どもをもうけるという至極個人的な事情にまで職場が介入し、基本的人権より仕事を強要する。我が祖国は野蛮だ。

日本で働いたら負け。

しかも母親になる女性でさえこんな状況で、父親が育児休暇を取るなんぞ非現実的と言わざるを得ない。それにマタハラは「ヤリっぱなし」で無責任な男性だけでなく、同じ境遇を経験したり将来被害者になるかもしれない女性自身が加害者にまわるのも闇が深い。

この原因は日本の職場が「連帯責任」であることが大きい。

本来、欠員で労働力が足りないならパートタイムやフリーランスで短期的に人材を補えばいいし、そもそも企業は長期休暇に入る人材が一定数いることを見込んで余裕を持った採用をしておくべきだ。

ところが根腐れ日本企業は追加の人件費をケチり、職場の「連帯責任」として全員の負荷を上げることで足りない労働力をカバーしようとする。ようは「絆」とか「頑張ろう」みたいな具体策に欠ける精神論だね。

個人の職責が労働契約上明記されていないので、自分の仕事を効率よく終わらせても他人を無償で手伝うのが当たり前。ということは誰かが休むと給料据え置きのまま理不尽に自分の負荷が上がるのだから、育児休暇で「サボる」人を妬ましく思う気持ちも理解できる。団結は疎外を生むのだ。

団結は疎外を生むので共生くらいユルいのがいい
小学校3年生くらいのときにクラスで大縄が流行った。全員が8の字に並んでグルグルグルグル。長い縄跳びを2人でぶん回してみんな順番に飛んでいく、アレ。あれってなにが面白いの(=^・・^;=)?あん...

育児休暇が職場の迷惑行為になりマタハラを生む根本原因はここにある。

マタハラは日本人の意識の問題だけでなく、ギリギリの労働力しか確保しない採用計画がクソすぎて職場が機能していない弊害だ。そもそも1人抜けただけで仕事が廻らなくなるようなビジネスモデルはすでに崩壊している。「労基法を守ってたら潰れる」とか嘆く経営者がいるけど「お前はもう死んでいる」としか言えない。

収益性が悪く1人の社員に2人分の仕事をさせて辛うじて生きているように見せかけるなんてまるでゾンビだ。労働者にとってそういうゾンビ企業で働くことはリスクだし「負け」。

日本の労働環境で負けた僕は、逃げるようにシンガポールに転職した。

シンガポールの米系ホワイト企業

その後、僕が5年も働いたアメリカ資本の会社では、福利厚生として女性は出産後3ヶ月も有給で休めることになっていた。そして実際に子どもが出来たらみんな当然のようにこの制度を使っていた。会社も予算をしっかり確保しているらしく、程なく必要な増員がなされる。

日本からしたら夢のようなホワイトっぷり。

素晴らしい。

と、シンガポールの外資企業に転職して最初のうちは思ったんだけどね。

でもちょっと考えると不思議な話だ。だって誰かが育休に入るたびに新人を雇っていたら、人員が雪だるま式に増えてしまう。しかも育児休暇から戻ってきたら自分の仕事を新人に取られているわけで、職場のポジションを守るために育児休暇をあえて取らないという皮肉な事態になりかねない。

でも大丈夫。

育休から戻った女性は程なく会社を辞めていくのだ。元職場では僕が務めていた5年間で知る限り育児休暇を取った同僚は全員辞めた。

シンガポールにもマタハラみたいな嫌がらせがあるのだろうか?育休から復職したら仕事が無くなっていたのだろうか?

価値無き仕事は途上国へ

どうも違うっぽい。

僕がいた部署はエリートとは程遠い「誰にでも出来る仕事」だった。男独りで暮らせればいいお気楽な僕としてはグダグダ働けるから最高だったけど、これから子どもを養っていこうとする人には給料が安すぎる。

そして「誰にでも出来る仕事」っていうヤツは何年やっても身につけられるスキルがほとんどない。しかも昇給のスピードが遅いというか実際ほとんど昇給しない上、社内にキャリアパスもない。

だから家族を養う必要が生じたら転職するしかないのだ。

とはいえそんなことは納得ずく。そこで「お得な」育児休暇を堪能した後、家族を養えるもっと条件が良い企業に転職するのは実に合理的な選択である。実際に退職した同僚をFacebookなどで見ると、程なくしてちゃんと再就職を果たしている。シンガポールの景気はなんだかんだ言ってもそれほど好調なのだ。

でも福利厚生を充実させた結果、使い捨てにされてしまう会社としてはたまったもんじゃない。

だから昨今、給与水準も福利厚生の水準も高いシンガポールから、マレーシアやタイに「誰にでも出来る」非熟練の仕事がどんどん流出している。僕の部署もこうした東南アジアの新興国企業にアウトソーシングされる形で廃止となった。より低い給料と低い福利厚生でも喜んで働く人たちがそこにはいるのだろう。

しかもシンガポール政府もこの流れを推奨している感がある。

2012年以降の外国人労働者の引き締めを見ていると、ネイティブ話者でしか成り立たないような仕事であっても非熟練職はもう必要ないというメッセージを強く感じる。限られた国土でGDPを上げていくためには、生産性が低い仕事はお荷物でしかないのかもしれない。

先進国に生まれても生産性が低い人間は蹴り出される
うつ病って治らないのかな。週5でちゃんと働けるようになって6年も経つのに、今だにたまにすごい波が来る。毎日少しずつ鬱の要素が脳に溜まっていて、それがある日突然ドバッと堰を切って溢れる感じ。揺り戻し...

すごい話だ。

ブラックでも仕事があるだけマシ、みたいな負け組の発想がシンガポールにはほとんどない。だから会社が「出産順番制」などと言い出したら、人材が逃げるばかりかネットで噂が広まって人が集まらなくなる。労働条件が悪い会社はブラック化する前に淘汰されるのだ。

さらに子どもを養えないような生産性が低い仕事も新興国に追い出され、もはやシンガポールは国民総エリート国家になるのかもしれない。

そう考えるとマタハラみたいな日本の職場ハラスメントは経済問題だ。

ギリギリの生活をしていている人が悪条件に耐えて仕事にしがみつく。そんな貧しい人がたくさんいるから、理不尽な「頑張り」が当たり前になってブラック企業が生まれる。

それが行き着く先は、社会の総ブラック化「絆」である。

日本の職場環境がクソなのは日本人の労働観の問題だけでなく、単純に景気が悪く国民が貧しいことが根本にある。