東京下町の銭湯にいるしゃべりたがりのおっちゃんが面白い

日本ならどの街へ行ってもとりあえず銭湯を探すくらい僕は銭湯が好きだ。もっと言うと、下町の銭湯に併設されている狭苦しいサウナが好きだ。

東京近郊の銭湯はバラエティが豊かで面白い。例えば大田区や川崎の銭湯は黒湯という墨汁を流したような地下水を使用しているところがある。戸越銀座温泉とかね。最初はあまりの黒さに汚染されてるんじゃないかと勘ぐってしまうけど、なんでも関東平野の河口に何万年も堆積した植物層を通過した天然の地下水らしい。

住所不定無職のための東京散歩ガイド
幼稚園児のころ「人体の不思議」がテーマの子供番組が好きだった。 スモールライトで極小の存在になって人間の消化管や血管に入り、博士の解説をリモートで聴きながら身体中を探検するのだ。 末は医者...

それにビジネスとして成功している銭湯と、旧態然でもう番台のおっちゃん(ばあちゃん)の代で終わりのつもりなんだろうなという風呂屋の差が顕著で興味深い。銭湯だってビジネスなのだ。なお両者とも違った味があっていいのだけど、僕として次の帰国では無くなっているかもしれない古々しいのが愛おしい。

それでシンガポールの友達が遊びにきたのを良いことに、ここ数日は東京下町のサウナつき銭湯をあちこち廻っている。その友達は毎日「アツい!アツい(日本語)」と大変そうだけど、これはガイドのガイドによるガイドのための東京散策なのでぜひ我慢してほしい。

新住民と旧住民の分断

東京を含め日本の多くの街は、新住民と旧住民の分断がある。代々その土地に根付いている人と、家を建てたり転勤で新たにやってきた人だ。

例えば昨日は成人式だったらしく、下町の目抜き通りには振り袖女子やイキってるヤンキーがわんさか湧いていたわけだが、律儀に成人式に参加するような彼らは圧倒的に土着の旧住民が多い。

一方、僕は当然成人式に出ていない。

東京郊外の都市で新住民として育った僕は、二十歳のときはもう育った街から引っ越して、縁もゆかりも無い埼玉に住んでいた。でも成人式を欠席したのは単に遠かったからだけではなく、義務教育時代に付き合いがあったのは同じ新住民の子供ばかりなのだ。そんな仲良かった連中は地元の成人式など行かないっていうか、そもそも僕みたいに引っ越して地元の残っているヤツがほとんどいないんだよね。だからどうせ僕なんかが育った街の成人式に行ったところで、イキった高齢ヤンキー軍団に絡まれてトラウマがひとつ増えるのがオチなのだ。

この新住民と旧住民の分断は、小学生の頃から顕著。

例えば小学校の運動会。お花見かってくらいにブルーシートで場所取りして、お昼時にはお母ちゃんがお重に詰めた山盛り唐揚げを持ってくるような。一族郎党を引き連れたお父ちゃんが、お揃いの鉢巻きをして父兄の綱引きにイキって参加しちゃうような。

例えば地域のお祭り。神社を起点に出陣するお神輿。若い衆に担がれたそのお神輿をよく見ると、その上に乗ってイキってるのが僕の同級生だったりする。僕、そもそも祭りがあることさえ知らなかったなぁ、みたいな。

このアウェイ感。ここで育っているのにアウェイな感じ。このアウェイ感が積もり積もって、結局「地元」に愛着を持つことを負けたみたいに感じるようになる。それが新住民の宿命なのである。

新住民と旧住民の垣根をぶっ壊すサウナのおっちゃん

その新住民と旧住民の垣根をぶっ壊すのが、下町銭湯のサウナだ。下町銭湯のサウナはとにかく狭い。あの狭い空間にあれほど男ばかりギッチリつまっていると、無言なのがむしろ異常に感じる。だから話好きな人は、たぶんそれで隣に座った人に話しかけずにはいられないんだろう。

「お兄さん、あんたどっから来たの?仕事かい?」

住処と仕事っすか(=^・・^;=) なぜ下町のおっちゃんって種族は住所と職業を知りたがるのだろう。多分それがお天気くらい当たり障りない話題なのかもしれないが、実際は僕自身が自分がどこに住んで何をやっている人なのかよくわかっていないのである。インターネットに文章を撒き散らしたりネットで頂戴した仕事をしています。住所は無くて、ってかそもそも住民票も無くて、来月は日本に居ません…。そんなんで食えているのかと言われれば、食えていないっす…。

もう僕の人生は、下町の銭湯で昼間からビール飲んでるようなおっちゃんには理解不能なのである。

そんな時は適当にはぐらかして相手の話を引き出す方向でコミュニケーションをとる。そういう当たり障りない(ある)話題を振ってくるような人は、突き詰めると当人が自分の話をしたいのである。それで55年前に中学卒業と同時に九州から上京したこと。それ以来ずっと必死に肉体労働に従事して、最後は東京湾岸の高層ビルのエアコン設置と清掃の仕事をしていたこと。今でもオリンピック特需で若手から応援の依頼が来るのを誇らしく感じていること。そして、もうすぐ40になる息子が定職に就かず引きこもりがちなこと…。

出るわ出るわで最後のトピックでようやく僕と繋がった。そこですかさず僕も日本で働いたけど上手く行かなかったこと、その後海外に移住して楽しかったこと。そして今はさらに次の人生を模索していること。そういうことを手短に語る。

すると「へぇ!面白いねぇ!」と言ってくれる。ここでお互い限界に達し、サウナを出て水風呂へ。滔々と今までの人生と息子への不安(親心)を語るおっちゃん。こういう人を見ていると、まるでこの地域で僕もずっと暮らして来たように感じる。

これが銭湯の醍醐味。

東京下町で暮らすしゃべりたがりのおっちゃんおばちゃんは面白い。下町の銭湯で地元の人に絡まれた際は、話を聞く方向でフレンドリーに対応すると先人の人生や地元の事情を教えてくれてオモロイよ。なかにはイカれた連中もいるだけどね(=^・・^;=)