独りでコツコツと緻密な作業をするのが好きな僕の仕事感

最近読んだなんかの本に、アートとデザインは別物であると書いてあって思わずうなずいた。その内容はだいたいこんな感じ。

アートというのは表現であり、作者の思いを何らかのカタチに表現さえできればアートとして成り立つ。つまりアートは作者が表現し終えた時点で完成しているのであって、それを見た人がどう捉え理解するかは、わりかしどうでもいい。むしろ自由な表現に無限の解釈があり得るのがアートの魅力であると。

一方でデザインには伝えるべき具体的なメッセージがあり、そのメッセージを「誰にでも」「容易に」「正確に」伝えるための手段がデザインなのだ。だから難解で特定の人にしか理解出来なかったり、伝えるべきメッセージが間違った意味で伝わったなら、それはデザインの失敗であると。

確かにそうだ。

僕は世界を放浪しているのに過敏性大腸炎もちで、そりゃもういろいろな国のいろいろな街で、いろいろなトイレに駆け込んできた。インドの消防署のトイレとかね。まぁそんな状態で旅するなって話はここでは目をつぶっていただくとして、トイレを示すマークは非常によく出来たデザインだと思う。

世界中のどこへいっても、男は青、女は赤。頭を表す●の下に、男は▼、女は▲。国や文化や施設のオシャレ度によって対象のアレンジは加えら得ているものの(足が生えていたりね)概ねどこの国のどこの街でもあのデザインは変わらない。スカートが男性の伝統衣装であるような国でトイレに駆け込んでも、今の所は女子トイレに間違って入ってしまったことは一度もない。

あのトイレマークは歴史上最も成功しているデザインの1つなんじゃないだろうか。

プログラミングを仕事にしたら詰んだ

僕は高校生の時にBasicというプログラミング言語に触れてコンピュータの魅力に目覚めた。

本格的に自分でコードを書き始めたのは大学生になって触れたJavaで、アプレットというHTMLに埋め込むゲームを作っては自己満足したもんだ。自分のWebサイトにアフィリエイトの広告を貼ったのもこの頃で、教科書に乗っていたサンプルを改造して作ったゲーム(オセロとかね)を世界のどこかにいる見ず知らずの人に遊んでもらい、そこからごく僅かでもおカネが発生するのが嬉しかった。

僕は独りでコツコツと緻密な作業をするのに向いているっぽい。学部の同期がそそくさと就職活動を始める頃、僕はそんな確信を得ていた。それで大学3年生のときにプログラマーとして就活し、まぁかなり実践的な経験とそれなりな成果を引っさげて望んだわけで、すぐに内定を頂くことができた。

ところがそこには大きな落とし穴があった。企業で仕事として行うプログラミングは、趣味でゲームを作るのとはまるで違う作業だったのだ。

趣味でやるサンデープログラミングはいわば自分が望む世界や機能を生み出す「アーティスト」的な活動で、基本的に自分自身が満足出来ればそれで良い。たとえネットに公開したゲームを誰も遊んでくれなかったとしても、ひとしきりガッカリしてまた次の作品に取り掛かればいい。

ところが職業プログラマーに求められるスキルは「デザイナー」としての資質だった。お客さんが望む機能を的確に理解し、簡潔にそれを実現する能力。チームとして1つの製品を製造するためにコーディング規約や結合テストみたいなお約束も増える。

結局、好き勝手にアートしててもそれが仕事になるのは一部の天才だけで、僕はそのレベルに達することが出来かったわけだ。

サーバ管理と技術翻訳

現在僕が生計を立てようとしているフリーランスという仕事の仕方も、結局求められるのは「デザイナー」としての資質だ。依頼主の望む完成像を汲み取り、それを簡潔に提供する能力。もちろん正直ちゃんと責任ある仕事が出来るのか不安もある。それでも職業プログラマーとして失敗した経験から、僕は大きな学びを得た。

得意な分野で創造性を発揮することを仕事にし損ねた僕のような凡人は、持てるスキルのうち「型にはまれる部分」だけを切り出して、そこだけを仕事にすればきっと上手くいく。

プログラミングは独創的な仕事だけに、思いつきをカタチにしたくてウズウズしたり、思いつきをカタチにさせてもらえないとイライラしたりする。でも僕の中であまり創造性を掻き立てられないサーバの運用なら、淡々と専門家が考えたマニュアルに従って「役割」をこなせる。文章を書くにしても、感情や価値観とは無縁な取扱説明書をひたすら英語から日本語に変換するだけの技術翻訳なら、決められた体裁に従って淡々と文字を追い書き進められる。

独創性や価値観とは無縁な作業なら、独りでコツコツと緻密な作業をするのが好きな「向いている」部分だけが活きてくるのだ。

好き勝手に文章を書いたりパッと思いついたアイデアでゲームアプリを作るのは、あくまで趣味でやればいい。生活していくために安定して仕事をするには、無駄な情熱や好奇心が暴走しない、淡々とした作業が向いている。

僕が仕事で目指すべきはアーティストではなくデザイナー。この仕事感のシフトで僕はまた働くことにワクワク出来るようになってきた。