インドネシアのバリ島には、地理的な近さもあって年金暮らしのオーストラリア人がウジャウジャいる。物価が安くてグダグダ暮らしやすい東南アジアで沈没しているのは日中韓の東アジア人だけではないのだ。
僕がシンガポールのホステルでバイトしていた時と相変わらず、ここで出会ったオーストラリア人の年配男性は多かれ少なかれ「オラが村ジジイ」という感じ。言動があからさまにエラそうで、そこにはアジア人を見下した態度も透けてみえる。
まぁ国を問わず爺さんとは潜在的にそういう生き物な気もするけど。
バリ島にはワルンと呼ばれる地元食堂があちこちにあって、残念ながらその多くは観光客向けになってしまっている。けど今でも裏路地を入れば地元民ご用達のちょっと汚らしくて安い店を見つけられる。リゾート地として名を馳せるバリだけど、地元民に合わせた生活をしていれば300円で美味しい地元料理をお腹いっぱい食べられるのである。
ただ沈没外国人にとっても地元ワルンに辿り着くのはそう難しくなく、夜はもっぱら長期滞在オーストラリア人の溜まり場になっていることも。酔っぱらい無免許運転のスクーターで、ビンタンビールの看板の光に夜な夜な吸い寄せられてくるのだ。
僕が通っている近所のワルンも、酒が飲めることもあり行く時間帯によっては白人のグループに占拠されている。グループといっても4人くらいだけど、これは集団が苦手な僕にとって困った事態だ。なにしろ地元民ご用達のワルンには、せいぜい10席くらいしかない。だから静かに食事したいのに白人団体がいる時間には彼らに絡まれずにご飯にありつけない。
「ああ、またお前か」
僕は英語で暮らすようになってから日が浅いからか、白人コミュニティに混ざるといまだに「すげー俺、この爺さんの言ってることがわかるわぁ…」と狼狽してしまう。そして爺さんたちの昔話や自慢話を延々と聞かされることになるのだ。
ワルン食堂で話しかけてくるオーストラリア人爺がムカつくのは「仕事がたくさんあるオーストラリアに移民しろよ」と言っときながら、心の底では移民を心良く思っていないことを匂わせるからだ。オラが村マウンティングである。オラが村においでよ!ま、君には無理だろうけどね。
バルス(=^・・^#=)
まぁそんな感じでここ数日僕は沈没オーストラリア人にうんざりしており、よっぽど食事するワルンを変えようかとも思ったんだけど、なにせこの店はオバちゃんが気さくで、しかも安くて美味しいのである。まじにコアラパンチ、カンガルーキックでオーストラリア大陸を南極の向こう側まですっ飛ばしたいものだ。
今こそ有袋類の本気を見せろ!バルス(=^・・^#=)
チャリで来たドイツ爺さん
そんな地元食堂の白人コミュニティに、今日は見慣れないドイツ爺さんが混ざっていた。
中国人とドイツ人は、まじで世界のどこにでもいる。
しかもこのドイツ人爺さんはなんとフランクフルトから3年かけて自転車とフェリーでバリ島まで来たらしい。そう、ドイツ人には自転車でクレイジーな距離を走破するのが大好きな人が多い。僕が働いていたシンガポールのホステルでも「チャリで来た」「2万kmくらい」系ドイツ人を3人も泊めた。あとインド北西部のラージャスターン砂漠で、乳飲み子を側車に乗せてマウンテンバイクで爆走するドイツ母ちゃんにも出会った。
あとアイツだ。オランダの港町、ロッテルダムで泊まったホステルの二段ベッドに強烈に足が臭いドイツ青年がいて、穏やかに風呂に入ってこいと言うために話しかけたら「チャリで来た」と。しかも「大学のゼミがあるからドイツから毎月来てるんだよね。往復500kmくらいかな」と。電車を使え、電車を。ゲルマン民族が生み出した高速鉄道ICEが泣いているぞ。
彼らは良い意味でクレイジーだ。美味しいからってビールの飲み過ぎだと思う。
さて、ワルン食堂のクレイジー・ドイツ爺さんの話だった気がする。
彼も年金暮らしの退職者で、現役時代は電気関係の工事していたらしい。ブルーカラーである。そして奥さんは画商で、なんと彼女も一緒にバリ島まで来たと。チャリで来たチャリとは、2人乗りのタンデム自転車だったのだ。あれクソ重いのに…。だから3年もかかったのか。ヤバい。ビールの飲み過ぎだ。
実際に彼は僕に話しかけて来た時点でかなり酔っており、しかも僕がバカスカ飲みまくるもんだから負けじと頑張り管を巻きだした。話題はもっぱら銀行に務めるエリート息子である。酔っぱらうと息子自慢を始めるのはちょっとシンガポール人おっさんっぽくてホーカーセンターが懐かしくなった。
この勢いなら言える!
僕はドイツ人に率直に質問したいことがあったのだ。
民族・国家・宗教は希薄化するか
ドイツ白人の出生率は日本人と同じく低下していて、そこへイスラム圏からの移民が流入し、さらに移民の家族計画が旺盛すぎるため、今後半世紀以内にドイツはイスラム教国になると言われる。それでもいいのか?誇り高きゲルマン民族、数々の戦乱で守ってきたドイツの歴史と土地と文化。このまま行くとゲルマンが自分の国で少数民族になっちゃうよ。
「いいのさ。後のことは次の世代の責任だ。それに。その頃にはもう国家や民族という概念がなくなっているだろう。」
ちゃんと聞き取れなかったけど彼も純血のゲルマンではないらしく、今の若い世代は混血がもっと進んでいる。そしてEUを出るまでパスポートなんて出さずにどこまでも自転車を漕いで行けた。この自由な範囲がもっと広がり、地球を覆うだろう。国家はもうその程度の存在になっているし、そこで暮らす人々も複雑な混血だろう、と。
いや、でも英国EUやめるって言ってるし、リベラル議員が射殺されたし、メルケルたんピンチだし…なんか全体的に雲行きあやしくね?ヤバくね(=^・・^;=)?
「その頃に残るのは個人の幸せと宗教の正義だけだ」
え、宗教は残るんかい(=^・・^;=) じゃあイスラムに覆われる、誇り高きドイツのプロテスタントは…。ルターが現状を見たら怒り狂って聖書をアラビア語に翻訳してヘリコプターでばらまくと思うね。実際、アメリカにはトランプ大統領が誕生したし、隣のフランスでも極右が政権を取るのは時間の問題だとおもう。そんな中、なんかドイツ人だけおっとりしすぎじゃありません?そこら辺どう思ってるのよ?
「そういう君だって日本で暮らす気はないんだろう?民族とか国家とかそういう時代じゃないんだ。大切なのは個人の幸福と信仰だ。」
・・・(=^・・^;=)
確かにこの世界はのっぺりと均質化している。
戦略的に社会制度を欧米白人国家のスタンダードに合わせて近代化を実現したシンガポールはもちろん、ここバリ島でも伝統やバリヒンドゥーという宗教をも観光資源として開放し、女性の肌の露出とかも白人先進国に合わせて大幅緩和している感がある。
戦後はまさに、なんでも白人先進国に合わせていくことが経済成長する決め手だった。そしてその結果、どこでも英語が通じ、どこでもハンバーガーとピザとチキンが買えて、女性がタトゥーや肌の露出をして夜の街を闊歩できる場所が世界中に広がった。
ところが近年は白人先進国の人口が減り国力が落ち、逆に人口ボーナス期を迎えたアジア諸国、特に拡散力の強い中華、イスラム勢の影響力が白人先進国にものすごい勢いで還流している。
民族・国家・宗教は今後希薄化していくのではなく、白人プロテスタントのスタンダードから中華・イスラムのスタンダードで塗り替えられていく。
南国で祖国バンザイできるのも、3年ホテル暮らしで40カ国以上を自転車で巡れるのも、彼らの国が大量の移民を受け入れることで経済と公的年金を維持し、それでいてまだ彼ら白人が政治の主導権を握れているからだ。
今後移民が更に増えてこの立場が逆転したとき、どうなるか。この絶望的な未来について、お気楽ドイツ爺も祖国バンザイオーストラリア爺も、あまりにも無自覚だ。