東南アジア就職は語学や業務スキルも大切だけど、虫耐性が最重要

僕が沈没しているバリ島のホステルには、1階にちょっとしたカフェが、そして屋上には海の見えるBARが併設されている。ここは世界的なサーフィンの聖地なのに、ブログの話題はホステルばかり…。僕の生粋の外こもり体質と、仕事の忙しさをお察しください…。

まぁそんなわけで朝は1階のカフェでコーヒー、夜はルーフトップでチビチビやりながらパソコンに向かう。ここ最近、酒を止めたような気がするけど飲み過ぎて忘れた(=^・・^;=)

だってさ。

普通カフェとかBARで飲み食いすると、飯も酒も値段を盛ってあるものだろう。だからスーパーやせいぜいコンビニで生活物資を買ってくるのが常なんだけど、このホステルときたら瓶ビールがなんとスーパーよりも全然安い。朝ごはんのベーコンエッグ・サラダ・トーストのセットなんて山盛りで300円だもんな。

こうなると最早食わない方がむしろ損。そして3食ともホステルで食って呑んで一歩も外に出ないのが経済的合理というもの。

一度入ったら出られない。なんという邪悪なホステルだろうか。

昆虫すごいぜ!東南アジア!

そんなわけで今朝も1階のカフェでちょい薄めのアメリカン珈琲をアイスで頼んでチビチビやっていたんだけど。そしたらドイツ人親子がドヤドヤやってきた。メインストリートに面しているこのカフェは、別にホステルに滞在していない人でも自由に利用できる。そしてこれだけ安くてクオリティが高けりゃ、そりゃ流行る。

ドイツ人親子は、幼稚園くらいの女の子と、2mはありそうな長身のパパ。彼はそのうえ肩幅が広く、いかついムスターシュ、両腕にはでっかい入れ墨が掘ってある。昔はやんちゃだったのか、店員に対する口調も何やら横柄である。お子様は金髪で瞳が緑色。典型的なドイツ人少女って感じ。今はまるでお人形さんみたいなのに、これがどうして20年後にはミシュランのタイヤマンになってしまうのか。ドイツ人のトランスフォーム能力には目を見張るものがある。ホグワーツ魔法魔術学校に優先入学できそうだ。

しっかも。当然のことながら4歳のガキんちょでも、ドイツ語のあの変態的に複雑な冠詞の格変化を(たぶん)正しく出来てるんだよね。ネイティブってすげー。ドイツ語に挫折した僕は朝から4歳児に自尊心をズタズタにされ、劣等感に頬を濡らしながらカフェアメリカンについてきたチョコクロワッサンをほうばった。

そしたら。

「うっわ…!虫がいるじゃねーか!」

カウンターを振り返ると、元ヤンパパがカフェのショーケースを指さしながら店員相手に抗議を始めた。朝から元気だな。

「ナシ!なし!虫がたかってる朝食なんてごめんだ。注文は全部キャンセルする。おい、いくぞ」

そう言うがはやいか、女の子の手を引いて出ていってしまった。

おいおいおいお…(=^・・^;=)

マジか。まさにあんたが指さしたそのチョコクロワッサン、今僕が猛烈に食べてるんですけどねぇ…。

ところが地黒のジャイ子みたいなカフェのマスターは、やれやれ神経質ねぇ、朝から面倒くさい客が来たもんだわ、みたいな感じ。メンタルが強すぎる。あんなネオナチみたいなのに怒鳴られたら、俺なら泣いちゃうかもしれない。ししもんは涙もろいライオンなのである。

それに加え、ガングロ店員ジャイ子はメンタルがあまりにも強すぎるのか、まるで何事もなかったかのようにスマホのインスタグラムに視線を戻した。

おいおいおいお…(=^・・^;=)

食い物のショーケースに虫がたかってもクロワッサン撤去しないんかいw 掃除もしないんかいwしかもその見返してるの、自分で投稿した自撮り写真かいwどんだけ自分好きなんw しかも盛りすぎ(=^・・^#=)

とはいえ僕はメンタルが豆腐だから不安で仕方ない。だからソワソワとショーケースの中を除いてみた。ところが元ヤンのネオナチパパが騒いでいた「インセクト(昆虫)」の正体は、ただの小蟻であった。菓子パンを陳列しているショーケースに、数匹のアリが侵入し、我らと一緒に朝ごはんタイムを楽しんでいた。

なんだよ。アリかよ。

てっきりゴキブリとか最悪ネズミが丸焼きになって朝食に混入したのかと思ったじゃないか。騒ぎ過ぎだ。

僕も、やれやれ神経質ねぇ、みたいな感じで店員と目配せして、視線をパソコンに戻した。ドイツと違って東南アジアは自撮りのチェックに忙しいのである。

アリ慣れは海外スキル

男の子という生き物は、アリの虐殺方法に関して中世の魔女狩り担当官くらいには詳しい。

脚と触角を引きちぎってお茶碗に盛ったり、隊列をライターで炙ったり、二匹を押し付けて共食いさせたり、トイレのサンポールを巣に注入してお家断絶の刑にしたりね。あれはアレで生物学的見識を深めることができるし、命の尊さを学ぶ必要な成長過程だ。

ホントだよ(=^・・^=)♬

たとえば強酸性によりタンパク質が凝固していくのを観察するのに、アリにサンポールをぶっかける以上にわかりやすい例を有機化学で学位を取った今でも思いつかない。

ところが東南アジアのいたる所にいるこの小アリ、これがガチにマジに小さいのである。

なまじ1ミリ以下しかないものだから、本当に足が6本あって分類学的な「昆虫」の要件を満たしているのかすら確認が怪しい。老眼になったら部屋にウジャウジャ湧いても気づかないんじゃなかろうか。彼らはそのくらい小さい。

だから虐殺方法の研究材料としても使えない。

このように。東南アジアの至るところにいる小アリたちは、本当にどうしょうもない連中なのである。

高層コンドミニアムでも家に入ってくるなんて当たり前だし、彼らはむしろ人間の家ができるずっと前からここでアリ稼業を営んでたんだろう。なんか痒いなーと思ったら腕をコソコソはいつくばっている。木から落ちてくる。風で飛んでくる。いちいち気にしてたら夜も眠れない。どこにでもいるってことはベッドにだっているのだから。

たぶん、東南アジアに住んでいる以上、ある程度の確率で毎日アリを食べてすらいると思う。

どこにでもいるってことはクロワッサンにもいるし、スープに使われた野菜にも混入している。ただこれは日本で言えば枝豆の●●%には虫が入ってるのと同じ状況。小さな昆虫は世界中どこにでもいる以上、それを食卓を含む日常生活から完全に排除するのは容易なことではない。

虫耐性。無駄にキャーキャー言わない鈍感さ。

こういう、わりかしどうでもよさそうなところが、超現実的に海外生活の強みになる。

この世の優秀な人たちは、そりゃもちろん就活では有利だ。だけど、名だたる一流企業でせっかく働きはじめたのに、ぜんぜん馴染めず祖国に逃げ帰る人はとても多い。彼のネオナチパパだって、クロワッサンにアリが数匹いたくらいでキレているようでは東南アジアでとても暮らしていけない。あのドイツ人がいくら優秀で、他人に真似できないスキルを持っていたとしても、この地に溶け込み、現地社会に根ざした暮らしから程度の幸福を見出さない限り、海外生活というのは絶対に長続きしないのだ

ホステルにアリが出ただけで2500字も書いてしまったけど、要するにこういうことだ。

海外就職。海外転職。海外で働くというと、語学とか業務スキルとか学歴とか、直接的にお金に結びつくわかりやすい能力が全てであるように感じる。ところがその実、その全てを完璧に身に着けた人がわずか数ヶ月で憧れのポジションを放棄して逃げ帰ることも侭ある。

それはひとえに、東南アジアの良い加減さ、ユルさ、無責任さ、そして少々の汚さに、これはもう生理的に耐えられなかったのだろう。逆に言えば、その空いた一流企業のポジションを埋めるのは、良い加減で、ユルくて、不潔耐性がある、業務スキルや経験がイマイチなあなたかもしれない。

人生ってのはどうなるかわからない。

語学とか業務スキルとか学歴とか、直接的にお金に結びつくわかりやすい能力に自信が持てなかったとしても。場合によっては一見全然関係なさそうな特性が、めっちゃベストマッチして決定打になることもある。安易でネガティブな決めつけは人生の幅を狭める。

海外就職に挑戦したい人には、ひとえにアリが苦手なだけで東南アジアでは安寧に暮らせないということを是非覚えておいてほしい。