性別や年齢で暗黙の役割が決まる狭い社会の崩壊

ビッターン!!!あああああ!!!

仕事を片付けてひとしきり酔っ払ったし、さぁそろそろ寝ようか。そう思ってベッドに入ると、僕が泊まっているドミトリーに何か巨大で柔らかいものが落っこちて、なにやらものすごい音と叫び声がした。

まぁ人間が落ちたんだろうな(=^・・^;=)

コップに冷水と熱湯を注ぐ音は違う。これは温度によって水分子同士の水素結合の強さが変わるからで、冷たい水ほどねっとりしていて、温度が上がるほど水はサラサラになるわけ。しかしまぁ、人間が高いところがら落っこちる音で、その人の体脂肪率がわかるとは思わなかった。水がサラサラな一方で、体脂肪は実にドロドロしているわけだ。これは中々の体格の持ち主が落下したに違いない。

白人だろうか?

僕が長期投宿しているインドネシア・バリ島のホステルは、昨今東南アジアで絶賛拡大中のカプセル型。壁の一面を板で上下二段に区切り、各区画にベッドマットレスを放り込んだ簡素な作り。日本のカプセルホテルと同様に簡易的なカーテンで一応外界から完全に仕切られ、最低限のプライバシーは守られる。

ところが日本のカプセルホテルと同じように、上段のベッドはかなり高いところにある。ここから足を滑らせれば2mくらいは落っこちるハメになり、もし頭からモロに落ちたら首の骨を折って死ぬかもしれない。海外で面倒事にクビを突っ込むのは嫌なんだけど、まぁこんな時間に起きてるヤツも少ないだろうし、ここらで徳を積んでおくかね。

おーい、大丈夫かいや(=^・・^;=)?

落っこちた韓国人

って落ちたのお前かい!!!

僕はついさっきまで韓国人メインの「ドラえもんグループ」と飲んだくれていた。上段ベッドから落っこちた巨漢は、さっきまで同じグループにいたパクだったのだ。

検索で情報を取るのは欠点を探すバイアスがかかり国際交流に向かない

彼は38歳の韓国生まれ韓国育ちの韓国人なんだけど、高校卒業後に日本の料理専門学校に留学し、それ以来ずっと東京都心の老舗寿司屋で働いてきた。いまは「ちょっと疲れました」とのことで、人生の休息期間とばかりに退職して東南アジアを放浪中。調理師免許と10年以上の経験があれば、その気になれば即戦力として簡単に次の仕事は見つかるという。

それに加えて当然パクは日本語が堪能だし、働いていた寿司屋にやってきた有名な政治家や芸能人の写真をスマホで見せてくれた。僕は芸能人や外食産業にまったく興味がないから、かなり有名な人も話題のレストランも全然知らない。でも彼の口ぶりから、六本木のかなりの名店で10年以上働いてきたようだ。でも最初の5年は食べ物に触らせても貰えなかったらしい。実に日本っぽい。

今夜の飲み仲間は、リーダー格の韓国ジャイアン、中国スネ夫、そして韓国シズカちゃん2号に加え、僕と新入りのパクを含めたいつものメンバー。そこに、今夜は途中からオーストラリア婆さんの集団(BBA48)、そしてサウジアラビアからきた酒飲めないのに夜を楽しみたいムスリム青年団が乱入してきた。彼らは全世界のイスラム教徒にとってメッカに次ぐ聖地である、メディナの出身。

こうなると韓国人やBBA48なんかより、サウジアラビア人と話したほうが得られる情報が多いに決まっている。それに微妙な通訳伝言ゲームにも疲れた。

というわけで僕は近年緩和されたサウジアラビアの観光ビザで入ってくる外国人のリアル、そしてムスリム青年たちの生い立ち、有名なモスクや世界最大の女子大学なんかの話題でワイワイやっていたんだけど。でも僕を除く英語が苦手な中韓勢は、若い男と騒ぎたいだけのオーストラリアBBA48とよろしくやっていたようだ。

そしてパクは雰囲気に流されて飲みすぎた。

僕自身が酔っていたこともあり、駆けつけたのはパクがビッターン!!!あああああ!!!してから20秒は経っていたと思う。仰向けに横たわる彼はそのまま本当に肉塊になってしまいそうだったけど、身体をゆすると上の空で「だいじょぶ、だいじょぶ」と繰り返す。でも確実に泥酔しているうえ、強く頭を打っていたら外傷がなくても危険だ。翌朝冷たくなってたみたいな結果には絶対したくない。

とりあえずスタッフを呼んで来るよ(=^・・^;=) なんか海外保険に入ってる?

バリ島に救急車があるか知らんし、インドネシアというと日本の救急車が中古でそのまま運用されていそうな偏見があるけども。でもパクは「だいじょぶ、だいじょぶ」と繰り返すばかり。そしてモソモソと起き上がり、ヨロヨロながらも自力で垂直のハシゴを登ってベッドに戻っていった。ビッターン!!で起きちゃって僕と一緒に駆けつけた同室の英国青年も「まぁ放っとけや。やれやれだぜクソが」みたいなことを言い放って夢の中に戻っていった。英国訛りの罵り言葉というのは、真綿で殴打するような趣がある。

こうなると流石にパクをベッドから引きずり出して救急車に引き渡すわけにもいかない。

ところが翌日、今夜は果たして定例飲み歩き会が開催されるのかと思っていたら、僕がオフィス代わりに使っているショッピングセンターのスタバで、ギブスで固定した右腕を吊ったパクとバッタリ会った。

「折れてました」「なにも覚えてない」「もう酒は飲みません…」

白い砂浜、青い海。サーフィンのメッカをトボトボあるく彼の影は、いつもより薄いように感じた。

性別や年齢で役割が決まる韓国社会

この「パク落下事件」がキッカケで、日中韓ドラえもんグループは決定的な崩壊を迎えた。

そもそも共通語がない状況で毎晩飲み歩くことに無理があったのだ。各々が抱えていた問題がこの事件をキッカケに顕在化し、特に韓国シズカちゃん1号2号が離脱することで呆気なく空中分解してしまった。

「もう40歳近いのに自己管理が出来ないなんて信じられない」

で、ですよね(=^・・^;=) 英語が少し出来るシズカちゃん2号は、同じく痛飲することが多い僕の前でそんなパク批判をしてはばからない。でも彼女の話を聞くにつけ、フラストレーションの根源は彼の素行だけではないのである。

韓国人社会は、それが海外だろうと、日本よりも性別や年令による「暗黙の役割」「正しい立ち振舞い」がキッチリ決まっている印象を受けた。それが強烈な男女の軋轢を生み、ひいては世界最低水準の出生率に現れているんじゃないか。

例えば風俗ジャイアンが、毎晩奢られっぱなしでそれを当然のように振る舞うシズカちゃん1号2号について僕に愚痴ったことがある。韓国女ってのはああなのさ。いつも自分が一番で、自分の外面ばっか気にしやがる。それで俺たち、いままで払った分なんか見返りがあったか?

彼とは言葉が通じないのだけど、たぶんこんな感じだ。

まぁね。でも酒場に来る女性ってのは多かれ少なかれそんなもんだろうし、それでもやっぱグループに女性がいた方が場が華やかになるしさ。僕は別に悪く思わないけどね。仕事しながらココにいる僕と、無職で貯金を切り崩すばかりの風俗ジャイアン。この感じ方の違いには、僕らの懐事情も大いに関係している。まぁとにかく。ドラえもんグループの男性陣は、これ以上彼女らに奢ることに辟易としていたのだ。

ただ、シズカちゃん2号にも言い分がある。

「彼らは横柄よ。話し方とか話題が下品だし、アタシが尊重されていないように感じる。それにやることなすこと幼稚じゃない。もう嫌よ」

彼女らにしても漫然とタダ酒を呑んでいるわけじゃなく、女性として求められる暗黙の役割を意識した上で参加している。例えばシズカちゃん2号は合コンでウケず日本では絶滅したと言われる「取り分け女子」である。大皿でなんか注文したら率先して各人に取り分けてくれる。そういうやり方で男性陣を立ててるつもりなのに、裏で文句を言われる筋合いはない。

まぁ韓国男子にもこうした行動は全然ウケず、猛烈に裏目ってるけど(=^・・^;=)

こうした性別の役割だけじゃなく、ここにいる韓国人どうしには年齢によっても明確な序列が完成してしまった。例えばシズカちゃん1号と2号の間には10歳以上の年齢差がある。こうなると年下の1号が2号に意見するようなことはない。まだ知り合って1週間くらいのものだろうけど、とにかく絶対服従って感じ。なんとなく、中学校の部活を思い出した。

中国スネ夫はこの辺の立ち振る舞いが天才的に上手で、グループが崩壊した後もジャイアンに取り入って見事に韓国人グループに溶け込んでいた。言葉がろくすっぽ通じないのに、だ。

一方で僕はこんな暗黙の役割や序列みたいなのが苦手で、誰にもどこにも組みせず好き勝手言ったりやったりする一匹狼気質。KYってヤツだ。だから子分にならないと分かるやいなや、ジャイアン配下の男性陣も僕から離れていった。風俗に興味がないのも決定的だったように思う。

総括するならば。今回はひとえにリーダー格のジャイアンがマッチョすぎたんじゃないかな。

でも結果としてわざわざバリまで来て東アジア人でツルむのはもったいないし、シズカちゃん1号2号が僕のランチ友達になったので、僕としては美味しいところに落ち着いた。棚ボタししもんである。

めでたし、めでたし(=^・・^=)♬