東南アジアでボーッと生きてると叱られることもなく緩やかに貧しくなる

ねぇーえ、奥さん。最近いろいろお高くありません?

インフレ目標とか定めても物価が遅々として上がらない日本で育った僕には信じられないのだけど、東南アジアの物価の上がり方は冗談抜きにえげつない。

なんとかフリーランスで食えてる今は、7年前に無職だったとき放浪した国や街をランダムになぞっている。ところが各国の街角で食べるアレや、前回泊まったココみたいなのが、どれも値上がり。そりゃもう世界のみんなが寄ってたかって僕を騙しているみたいに感じる。

たった7年の間に、物価が嘘みたいに上がってしまったのだ。

例えばフィリピンにはサリサリストアと呼ばれるコンビニがある。コンビニといっても戦後のバラックと聞いて想像するような掘っ立て小屋を、鉄格子でなんとなくガードしたさながら野戦場のセーブポイントみたい風貌なんだけど。

このサリサリ、フィリピン全土になんと100万店舗もあるらしく、ほんとマジに山奥だろうが離島だろうが、人が住んでいようといまいと、そこがフィリピンの土地ならばサリサリストアだけは必ずある勢い。

サリサリストアはいろいろ安くて庶民の生活を支える商店であることは間違いない。

でも実は、タバコや洗剤や食料品に至るまで小分けにして売っているから安いのであって、スーパーで正規のパッケージをドンと買えば全然もっと安く手に入る。そういう意味で。サリサリストアとは、繁華街までの移動手段を持たず、正規のパッケージをまとめ買いできる経済力がない人から、少しずつマージンを取っている「貧困ビジネス」の側面があると僕は考える。例えばサンミゲルビールは20%くらい高かった。許せん(=^・・^#=)

けどサリサリを悪くいうとフィリピン好きの人から叩かれるかもしれない。なにしろフィリピンにとってサリサリストアは乗り合いバス「ジプニー」と並ぶ文化イメージそのもの。日本のニンジャ、韓国のキムチみたいなもんだ。

そんな話はどうでもいいとして。

とにかくね、奥さん。7年前はサリサリの菓子パンが5円だったんですよ!5円!ストリートチルドレンが寄ってたかって「2ペソくれ!2ペソくれ!」っていうもんだから、無職のクセに1人5円ならいいかってパンを買ってあげたからよく覚えている。

ところが久しぶりにあのパンを味わっておこうと思ったら、なんと20円になってた。もちろん当時とはサリサリ店も、パンの種類も、為替レートだって違う。だから一概に比較はできない。でもさ、見た目同じグレードのサリサリパンが7年で4倍ってヤバくない(=^・・^=)?

ガチにボーッと生きてると叱られない

4ヶ月くらい前、僕がまだ日本にいるときは5才児のCGに叱られるクイズ番組が流行っていた。

あの番組は時間を持て余した薄学老人の心をガッチリ掴んで離さない。大して知識もないのに「ああじゃない、こうじゃない」とお茶の間で管を巻き、そんで有名な俳優とかがガキに叱られるもんだから気持ちよくなれる。なんとなく鑑定団と同じコンセプト。あれも強気な出品者のメンツが安値で崩れるのが面白いんだよね。

ボーッと生きてんじゃねーよ(=^・・^#=)

マジね。ボーッと生きないためにはテレビを捨てるのが一番なのだから、アレ以上の皮肉は無い。

しかしまぁ。

ガチで本当にボーッと生きてそうな人達を見ると流石に不安になる。物価がこれだけ劇的に上がっているのに、東南アジアの街角には今だに昼間からグダグダと仕事をしてるんだか、してないんだかな人達がたくさんいる。いったいこのインフレでどうやって暮らしているのだろう。

例えばベトナムのバイクタクシー。

ベトナムの都市部ではGrabバイクという、アプリで呼べるバイクタクシーが大流行り。というか、便利で安くてもはやアプリでバイクを呼ばない意味がわからないレベル。

ところが21世紀にも関わらず、やる気なさげに客引きしている道端のバイタク爺も、今だに大勢いるんだこれが。それこそ7年前は土地勘もないのに彼らとのガチンコ価格交渉に挑むしかなかった。そして距離感も相場もわからないものだから、往々にしてボラれたもん。

だからそんなん、アプリが適正価格を教えてくれて、バイタクの方が必要な場所に来てくれる今、誰が道端の客引きなんぞ相手にするかって話。実際、旧態然としたバイタク爺を尻目にGrabに登録した若者ドライバーが客をかっさらっていく。

きっと年寄りはスマホを買うお金がないのだろう…。

いやいや。バイタク爺という生き物は、バイクの上に器用に寝っ転がって日がな一日スマホ三昧な人生なのである。意味がわからない。何故その電話にGrabアプリを入れて然るべき手順を踏まないのか。WhatsAppでチャットが出来るのだから、読み書きもスマホ操作も問題ないんだろうに…。

ボーッと生きてんじゃねーよ(=^・・^#=)

たぶん。ガチに本当にボーッと生きてると、叱られることすらないのだろう。でも自分では気づかないくらい、ゆっくりゆっくり、でも確実に、社会階層を沈下していく。それは真綿で首を絞められるような貧しさである。

ボーッと生きられない東南アジアとか

バリ島ってインドネシアなのに、インドネシアじゃない。

とりあえずゴミが1つも落ちてない。いや、そりゃ1つくらいは落ちているけどさ。捨てる人も目立たないし、昨今のバリのクリーンさはシンガポールと同等といえる。

というのも、島全体で徹底してビニール袋を排除しているんだよね。これは本当にすごい。コンビニやスーパーはもちろん、飯屋でテイクアウトしても、どれだけ買ってもドサッとそのまま手渡される。マクドナルドやKFCで大量に買うと流石に紙袋に入れてくれるけど、包装はそれだけ。

レジ袋有料化ですったもんだしている日本は周回遅れだ。

さらに掃除夫が街にたくさんいて、しかも東南アジアとは思えない勢いで一生懸命掃除しているものだから、こりゃもう道端になんか捨てたらゴメンじゃ済まされない雰囲気。他にも、サーフィンで有名なクタビーチ沿いに路上駐車しようものなら、大音量のアナウンスで即座に警告される。

バリ島の人々はボーッと生きていない。堂々と背筋を伸ばして生きている。

でもさ。

ボーッと出来ない東南アジアとか、いったい何が魅力なんだろうね。バリ島にいると本当にそう思う。暑いしダルいしビールが美味い。もっといい加減にのんびり生きればいいじゃない。

…そう思うってことは。

僕自身がボーッと生きたいから東南アジアに沈没する人生を選んでいる。サリサリストアやバイタク爺のグダグダっぷりを揶揄するわりに、それでグダグダ暮らせている彼らに触れることで僕は安心し、癒やされているんだ。

ホントそう。

ところがボーッと生きたいダメ人間に優しかった東南アジアにも確実に経済成長の波が押し寄せ、地元の人達がみんな勤勉に、そして努力や工夫を惜しまない生き方を選ぶようになっている。彼らをデジタル化が後押しする。なにしろインフレで生きるのに必要な全てが恐ろしい勢いで値上がりしているんだ。収入をそれ以上のスピードで上げていかないと、その先にあるのは明らかに悲惨な未来…。

先進国、東南アジア。そしたら今後、僕はいったい何処で生きればいいのだろう。

ボーッと生きてんじゃねーよ(=^・・^#=)

たぶん。そういうことなんだろう。