昨今、日本に空前のサウナブームが到来している。
僕はこのサウナブームが、日本の景気後退と関係していると読む。日本人が自由にお使えるおカネが減っているからこそ、コスパが高い娯楽が人気。さらに他人に合わせる必要がなく「ひとり身の丈」で楽しめる気楽さが、サウナブームの大きな要因だろうと。
バブル時代と比較するとわかりやすい。
古今東西、景気が良い時代は、お金をたくさん使うことが幸福のバロメーターとなる。特に男の場合、女のためにたくさんお金を使うことが大切。なにしろ時代を牽引し、億稼いでいた小室哲哉が破産するのだ。いったいどういうカネの使い方してんだって感じである。
景気が良い時代におカネをたくさん使うのは、純粋に自分が良い思いするためだけでなく、所属コミュニティ内の熾烈な覇権争いでもある。バブル戦国時代の弾幕とは札束であり、妻の鼻を高くしたり低くしたりするのが当時の音楽業界ではステータスシンボルだったのかもしれない。
ところが猛き者もついには滅びぬ。
21世紀の日本では、カネを使って時代を牽引するには、文字通り月まで行く必要がある。中途半端な成金は、タワマンのいかに高層のトイレから汚水を逆流させたかを競っている始末。妻は自分で稼いで鼻を高くしたり低くしたりして夫を捨てる。札束で弾幕を張ってもYoutuber程度にしかなれないし、女にカネを使ってもTwitterで叩かれて、コンビニの冷蔵庫に入ったガキと同じスピードで忘れられる。
カネで幸福を買えない時代。誰かと比較して自分のステータスを確認できない時代。
サウナとは、カネや女を無駄に意識することなく、満たされない男の孤独を充実に昇華するコスパ最高の娯楽なのだ。その気高き精神効果は薬物にも匹敵する。
そんなわけでドイツに向けて出国する直前に僕が蒸されに行ったときなど、東京郊外のスーパー銭湯のサウナは平日の昼間にも関わらず大賑わい。なにしろ大型スチーマーを2基も装備し、奥行き10mはあろう。この規模のゆとりを誇るサウナは、山を削り川を埋め放題のコンクリートロード東京多摩とはいえ、そう滅多にあるもんじゃない。
サウナの熱から2重の断熱ガラスで守られた、これまた巨大なテレビでは、時節柄ちょうど大相撲をやっていた。
土俵で横幅に課題がある裸の男たちが取っ組み合っているのを、サウナでは横幅に課題がある裸の男たちが固唾を飲んで見守り、土俵で横幅に課題がある裸の男が宙を舞うのを見て、サウナでは横幅に課題がある裸の男たちが「うぉー」などと平日の明るい時間から汗だくで大盛上がりしている。
ここからも、サウナが孤独を充実に昇華させるコスパの高い男の娯楽であることは疑う余地がないのだけど、それにしても平日昼のサウナで繰り広げられる横幅に課題がある裸の男たちの、あの汗だくの一体感というのは、絵的にあまりにも汚い。
特にレーシックにより両目2.0を誇るししもんアイには、まさに耐え難い。地デジ画質で飛び散るオッサンの汗!サウナで相撲観戦ともなると、画面の中に裸の男が倍増してもう最悪。
これこそ、サウナ玄人がテレビが付いていないサウナを尊ぶ一因であることに、疑いの余地はない。
20代で隠居
スランプなのに前置きが長くなってしまったが、このサウナで繰り広げられる汗だくの一体感は、僕にとっては訪日外国人からブログのネタを引き出すチャンスをなのである。
2019年の年末は東京下町にあるサウナ付きのカプセルホテルに長期投宿して、もっぱらブログのネタを求めてサウナ外交を展開していた。ネタ集めに忙しくて文章を書く時間が取れないという完全なる本末転倒に陥ったのだけども。
何しろ裸で入る公共浴場と遺体安置所みたいなカプセルホテルは、日本観光の名物になっていて、当然ロンリープラネットにも掲載されている。その2つを贅沢にも兼ね備えたホテルともなれば、ブログのネタに相応しい訪日外国人が選り取り見取りウジャウジャいるのである。
今日ご紹介するのは、中国南京市からきた、23歳の青年。
彼はなんと、ホテルのスリッパを履いたまま風呂場で体を洗っていた。その社会常識が欠如した行動と、周囲を観察して適切に立ち振舞うという概念を持ちあわせていないことから、これはもう完全無欠、文句のつけどころがない中国の中国人である。
ニーハオ、この履物は外で脱いでください(=^・・^;=)
「おっ!」
その驚きよう。本当に、風呂場では履物をどうするべきか、今この瞬間まで意識しなかったようだ。社会的に不適切と理解しているのに自分の欲求を優先する確信犯的中国人も多いなか、彼は大陸でも選りすぐりの珍獣かもしれない。良いぞ!ブログのネタに最適な逸材を射程に捉えた(=^・・^=)♬
僕は彼と同じタイミングで風呂を出て、東京で風呂上がりに牛乳を飲まないのは万死に値する無礼だと教えながらコーヒー牛乳をおごり、しばらく世間話することにした。
「日本語はちょっとデキまして。日本に1週間いまして、コミケに来まして、軍資金もありマス」
そういって使い込んだヴィトンの財布(たぶんニセモノ)を開けると、まさに軍資金というに相応しいほど諭吉がびっちり。いったいどういう奴なんだ。
「好きな絵師がコレで、コレはコミケ2日目ですが、コミケは初日から全力デス」
そういって差し出されたOPPOのスマホ画面には、猫耳としっぽが生えた少女。これは…いわゆるケモナーというジャンルなのでは…。しかも手塚治虫レベルにはヤバいケモナーだな。ししもんは猛々しいケモノだから、この時は切実に身の危険を感じた(=^・・^;=)
大層なコミケ軍資金だけど、中国で仕事して稼いだの?
「そんな感じです」
大学卒業したばっかだろうに凄い。南京って景気いいんだね。僕はインターネットで翻訳とかして暮らしているんだ。いい仕事あったら紹介してよ(=^・・^=)♬
「翻訳!ボクも翻訳みたいなものでして。学生のときに日本のマンガや小説を中国語に翻訳してネットで売ってまシタ」
それは…。著作権とかどうなっているんですか…。海賊版として海外に流出した日本のコンテンツ。そこから生じたカネがコミケの軍資金として日本に還流しているという事実。皮肉と言うほかない。
日本語が上手だけど、それは学校で勉強したの?
「大学の専攻は政治学ですが、日本語のコースも取りました。南京大学ということろで、コレは良い大学です。でも日本語はほとんどマンガとアニメですね笑」
南京大学は優秀だ。浙江大学とともに中国の大学ではよく名前を聞く。さらに政治学専攻となれば、卒業後は政府の役人になったりするのだろうか。
「今はリタイアして、大学を卒業してから仕事してません。貯金もありマス」
そういって銀行アプリ的な、バーコード決済的なアプリを立ち上げ、僕に見せてくれた。¥180000。人民元って15円とかだから日本円にも米ドルにも暗算し難いんだよね。
「300万円くらいです。その1割をコミケの軍資金で持ってきました」
300万円ってリタイアする額じゃなくね?僕は中国に何度か行ったことあるけど、南京みたいな都市部の物価じゃ実家ぐらしでも3年耐えられれば良いとこでは?
「ですが…若くして隠居するのは日本の本に影響を受けました。僕のバイブルで、いつも持ち歩いています。今もあります。コレです」
そういって彼がカバンから取り出したのは扁理大原「20代で隠居」だった。その本はちゃんと書店で買ったんだろうね?
お受験マシーンの末路
隠居に憧れる中国の若者と会ったのは、これが2人目だ。
1人目は8年くらい前に、僕がシンガポールで時給400円でアルバイトをしていたときの同僚。
彼は四川省成都出身の中国男子当時20歳で、世界大学ランキングでアジア首位を誇るシンガポール国立大学の留学生だった。省内100番(人生最高は14番)という成績で高校を卒業した秀才。なにしろ四川省だけで人口8000万もいるわけで、この成績は日本の県内100番とかとは次元が違う。
受験戦争の絶対勝者。その輝かしい学歴を引っさげて、将来どんなキャリアを描いているのだろう。
「もう疲れたという感覚。もし夢があるとするなら隠居したい」
ちょっとここの記憶が曖昧で、彼が言った言葉は正確には「隠居」と違う「遁世」とか「隠遁」とか、まぁ大衆や社会から距離を置いて独り静かに暮らすこと、って意味の言葉だった。その言葉は日本語になってない中国の熟語で、僕が意味がわからなかったから一緒に辞書で調べたのに、忘れてしまった。
歳を感じる…。
そんなことはどうでもいいとして。スリッパを履いて日本の風呂に入ったり、タイの仏教寺院で用を足したり、最近は世界中でコロナウィルスをばら撒いてひんしゅくを爆買いしている、親のシツケがなっていないことで悪名高き中国人。
だけどその実、中国でいう「親のシツケ」とは、社会的な立ち振舞いを身に着けさせることではない。単に学校の勉強させることなのだ。
今でこそ沿岸の大都市を中心に日本以上の民度が浸透してきたらしいけど、僕が旅をした10年近く前には、地下鉄の優先席に教科書を広げて子供に勉強させている親みたいな、典型的なモラルハザードを普通に見ることが出来た。
社会福祉が貧弱で、なおかつ親族以外は信用できない中国人社会において、子供の教育は医療保険を買うような将来への投資なのである。子供の社会的成功は、一族の安全保障そのもの。カネが絡むとマジにガチの中国人。そんな一族郎党のマジでガチの期待を、一人っ子がすべて背負うのである。
その重圧たるや、話を聞いただけで心臓のあたりがひんやりする。
ところが、自我形成に影響するほどの勉強を強いる熱血教育ママ(パパ)も、跡取りを無事に超一流大学にねじ込んだ段階で力尽きるのかもしれない。ケモナーの彼も、シンガポール国立大学の彼も、大学生になったら奇妙なほど親の干渉が減ったと証言する。
幼児期の奔放さや、思春期に済ますべきアレコレまで、自我形成のすべてを受験戦争の犠牲にしたお受験マシーンたちは、20歳を目前にしてようやく「自由」を手に入れるのだ。
ところが。
頑張る方向性を示し、旗を振り、ケツを叩く。そんな親がいなくなると、彼らは何をどうするべきなのか、自分が何をしたいのか、なんのためにどう頑張るのか。自分とは何者であるのかを、見失ってしまうのかもしれない。
いや、彼らの話を聞いて感じたのは「自分が空っぽであることに気づいた」という感覚。その次に来るのが「もう疲れた」「隠居したい」なのかもしれない。
ハングリー精神を去勢する汚職
ただ、受験戦争の勝者になったからこそ、テッペンから見える世界というのがあるらしい。
大した努力もせずに、親の七光りだけで同じ高みまで登ってきた、特権階級の存在である。ようやく日本でも上級国民の存在が可視化されるようになってきたけど、もとより中国の特権階級はガチである。
僕がシンガポールの米系企業でサラリーマンをしていたころ、同僚にそんな特権階級の中国人がいた。彼女は地デジ画質に耐えられない容姿というか、ぶっちゃけ全然美人ではなくいらっしゃるにも関わらず、吐き気を催す自撮りの鬼で、暇さえあれば何かのSNSアプリにグロ画像を仕込んでいた。
そんな彼女が突然、退職するという。実家の意向で資産家と政略結婚でもするのかと思いきや、「清華大学のMBAコースに入学する」という。
ガチに、マジで、あのチンフア(=^・・^;=)?
思わず二度聞きしちゃうよね。なんてったって清華大学といえば、かの習近平主席も卒業した中国1位の最高学府である。むしろ習近平主席が卒業したからこそか。なにしろ彼も試験を受けずに入学したと言われているし。
それでも普通に受験して入るなら偏差値90!
ゴルゴ13のIQくらいバカけているけど、これが現実らしい。本来なら南国で自撮りに明け暮れる容姿に課題のあるお嬢様が入れる大学ではないのである。
本来ならば。
そんな特権階級は、卒業後もコネで中国の優良企業はもちろん、海外の外資企業にも席が用意される。なんのコネもない庶民の子は、海外の大学から奨学金を獲得して、卒業後はそのまま海外で就職した方が、賄賂がない分むしろ安くてラクで近道。シンガポール国立大学の彼は、そう自嘲していた。
誰もケチをつけられないほど努力して、自分を犠牲にしてまで親の期待に応えたのに、報われないばかりか、なんの努力もしない人間が笑いながら追い越していく。
その時、人は、怒ったり悲しんだりせず、ただ呆然と立ち尽くしてしまうのかもしれない。
「隠居したい」
不公平な競争社会に疲れちゃった若者が、中国には一定数いるのだろう。国民のハングリー精神こそが中国経済成長の強みだったのに、民族の上澄みたるエリートの意欲を汚職によって去勢してしまうのは、あまりにももったいない。
近年一人っ子政策の副作用で中国の勢いにも陰りが見える。でも僕には、ただ若者の数が減っただけでなく、本当に優秀な層がやる気を無くした結果にみえて仕方ない。
お知らせ
内容の薄い、構成もなんも考えてない、僕の下世話な日常生活については、シンガポール在住のJessica嬢と共同で運営しているNameless.Lifeに、徒然なるままに書き殴ることにしました。
今まで通りこのブログ「無職は恥だが癖になる」では、時間とカネをかけて深く考えた結果を、構成を練った長い文章で表現したい。でもそれでは更新頻度を上げるのは困難。
あと、今年はオランダに移住したこともあり、ネットにばら撒いておくべき情報がとても増えた。そこで長らく放置していたNameless.Lifeを活用することにしたのです。日蘭通商条約に便乗した欧州移住に興味がある人は、2020年現在のリアルを見ることが出来ます。
ししもんの冒険をぜひご覧ください(=^・・^=)♬