2020年の2月にオランダに移住してきて以来、国境を一度も越えていない。
移住当初は地元の情報をどうやって取ればいいのかわからないこともあり、逆に危機感がなかった。まぁ、会社勤めじゃないし、自分には関係なかろうと。知らぬが仏である。
それで状況を知らないのをいいことに、ロックダウンになった当日にアムステルダムまで小旅行に出かけてしまった。
当時はオランダの人たちもあんま頓着していないというか、ロックダウン反対派とまでは行かなくとも「懐疑派」が多く、その当日もアムステルダムの街には結構な人出があった。観光客ではなく、明らかに地元の人たちの人出である。
でも店は軒並み閉まっているし、なんか雰囲気がおかしい。
この頃は中国が武漢ウィルスをばら撒いたと今よりも激しく糾弾する声が強く、見た目モロにアジア人である僕がルールを守らず暮らしていては、遠からず反感を買ってトラブルに巻き込まれるだろう。
この日から僕はちゃんと毎日オランダのニュースと政府発表を確認して、ルールに従うようになった。
予定が狂うと全部嫌になる
僕はこんないい加減な性格にもかかわらず、予定が狂うことを極端に嫌う。
たとえば旅行に出かけて、飛行機が大幅に遅延したり、目的のサービスを手違いで受けられなかったりすると、なんかもうすべて投げ出して家に帰りたくなる。
この、いい加減さと想定外の事態を嫌う性格を両立させる方法は、最初から予定を立てないことだ。「まぁ適当でいいよね」と思っておけば、何が起きてもちゃぶ台をひっくり返したくなる衝動が起きない。
その一方、「まぁ適当でいいよね」と思っているので、目的を効率的にこなしていくような、いわゆる「観光客」にはなれない。行き当たりばったりで時間に縛られないバックパッカーとしてしか、僕は旅に出られないのだ。
ところがコロナでバックパッカーが不可能になってしまった。
コロナ渦でも、オランダ在住日本人の結構多くは日本に一時帰国しているし、オランダ人もこそっとEU圏内を旅行しているっぽい。オランダ国王陛下も自家用ジェットでギリシャに遊びに出かけて怒られているし。ロックダウンでも人の流れは完全に止められておらず、隔離や移動制限など定められたルールを守れば「合法的に」海外旅行できるのだ。
でもそのルールっていうのは流動的。徹底的に調べてから行動しても、移動先でルールが突然変更され、新たな手続きのために手戻りや更なる遅延を余儀なくされる可能性がある。
僕はこれを楽しめない。
そろそろ日本に買い出し帰国したいし、オランダ国内やEU圏内を旅行したい気持ちもある。でも「まぁ適当でいいよね」が許されないなら、僕にとって苦痛が喜びを上回ってしまう。
ついに来たコロナパスポート
そんなめんどくさい僕が旅行する切り札になるのが、コロナパスポートだ。
ワクチン接種履歴やPCR陰性を証明するスマホアプリで、国境なり観光施設なりでバーコードを提示すると、隔離や移動制限を免除されるという代物。そういう仕組みができるとずいぶん前から言われていたものの、先月ようやく実態が見えてきた。
PCRテストの陰性証明書としてオランダ国内で使用されてきたアプリに、このワクチン接種証明機能が搭載されると発表されたのだ。とりあえずEU圏内ではこのバーコードが国際的な規格になる見通しで、これさえあればヨーロッパ旅行で想定外の発生を最小化できそう。
今後は各国で似たようなアプリが作られ、相互利用が促進されるのだろう。
オランダでワクチンを予約
そんな折、タイミングよく僕にワクチン接種の順番が回ってきた。
オランダに住民票を持っていると、ワクチン接種の招待状が郵送され、自分に順番が回ってきたことがわかるらしい。オランダ社会は何気にぜんぜんペーパーレス化されていない。
僕はこの招待状を3月くらいから首を長くして待っていたんだけど、実は招待状を紙で受け取るより前に公式ウェブサイトから予約できることを知った。機能的にはいつでもペーパーレス化できるけど、デジタル非対応世代に合わせて二重の仕組みを用意しているのかもしれない。
このウェブサイトにはワクチン接種の対象になった年齢が毎日発表される。医療関係者など最優先の人たちの接種が完了したので、高齢者から徐々に若い世代に対象が広がってくる感じ。
オランダ人にもワクチン懐疑派が多くて接種を拒否する人もいると聞くけど、そんなわけでワクチンを切望していた僕は1984年生まれが対象になった当日に予約を入れた。
こういう時にオランダで活躍するのがDigiDというスマホアプリだ。
日本ではオンラインで個人を特定する手段がない。ぶっちゃけオフラインでも運転免許証くらいしか特定できないのだけど。だから日本でコロナ給付金を配るとなると、必要以上の混乱が生じる。
一方オランダでは、このDigiDというアプリが納税者情報や住民票と紐づいている。だからワクチン予約サイトでも、このDigiDを使ってQRコードを読み込むとログインできる仕組みになっていた。
スッキリ簡単(=^・・^=)♬
予約サイトもちゃんと英語化されていて便利。ただ、やっぱ医療に関する英語は辞書がないと今でも無理だ…。
あとオランダの社会制度を知らないと回答を誤るだろう項目もあった。例えばRIVMという機関と接種履歴を共有するか、という項目。ここではYesを選択しないと意味ない。Noにするとコロナパスポートアプリがワクチン接種情報にアクセスできなくなってしまう。
なお、無職にはキツい直球の質問もあった(=^・・^;=)
必要事項にすべて答えると、最後に利用できる接種の日程が3つ提示された。住民票がある地域の接種会場と2回分の日付をセットで選択する必要がある。公共交通機関でたどり着きにくい場所もあるので、住所的な近さよりも交通手段を考慮して選んだ方が良いと感じた。
いざ当日!
オランダは自転車王国なのに、僕は自転車を持っていない。だから10km以内の移動は全部ローラーブレードである。雨が降ったらどうしようと思っていたんだけど晴れライオンなので事なきを得た。
僕が選んだ会場は地域の体育館。今回調べるまでここに体育館があることを知らなかった。
模範的日本人として予約時間の5分前に到着すると、人の流れがカチ合わないようにわかりやすい導線が出来ていた。そこに様々な人種の住民が次々と吸い込まれていく。
僕が住む南ホラント州はオランダの中でも移民の割合が一番高い地域なんだけど、ここまでとは。白人よりも有色人種の方が明らかに多い。インド系や中東系が多いと感じたけど、これは最大派閥であるポーランド白人を僕がオランダ白人と見分けられないからだ。
我らが東アジア勢も存在感を示してた。僕の前に並んでいた男性も中華系で、チラ見したらスマホの表示言語が簡体字だったので、もしかしたら僕と同じ移民一世かもしれない。
なお、接種会場は撮影禁止(=^・・^;=)
撮影した写真を投稿したり、WhatsAppなんかで「ワクチンなう」しているところを見咎められ、怒られてる人をたくさん見た。投稿した写真を消させてアルバムアプリまで確認する徹底ぶり。
オランダはルールベースというか、ダメなものは絶対ダメな文化。
その代わり同性婚、大麻、買春など、必要性を認めれば合法化して、白黒ハッキリさせる。この辺りは「雰囲気」でグレーゾーンのまま温存する日本とは非常に対照的だ。ルールを明文化して曖昧さを認めないのはシンガポールも同じだったけど、異なる常識を持つ移民が共存する上で非常に大切なことだと思う。
とか言っといて、この写真は撮影禁止マークが現れる前の施設外から撮ったものなので、怒られるまで掲載するです。雰囲気大切(=^・・^=)♬
接種会場はクアラルンプール空港KLIAにかつて存在したLCCターミナルのよう。わかりにくい例えで申し訳ない。日本でいえば選挙の投票所って感じか。鉄骨むき出しのだだっ広い体育館に、即席のブースや問診カウンターが整然と設置されている。
当然英語が通じるのだけど、こういう場合はオランダ語を話せないと気まずい。とはいえ、それはもう重々心得ているので、オランダ語で話しかけられる前に「Hi, how are you going!」とこちらから笑顔で挨拶する。これが一番穏便な「英語で対応してください」アピールなのだ。
ブースではネット予約時に発行された確認バーコードと、メールで送られてきた予約証の提示を求められた。あとオランダの移民局で発行されたIDカード。僕はプリンターを持っていないからスマホの画面を見せたけど、紙で提示している人が多かったし、実際その方がスムーズかもしれない。
仕組みを作って運用するのが得意なオランダ人
10分単位で時間指定されて集まってきた人たちなので、行列に並んだのはものの3分ほど。
注射が嫌いな僕の覚悟が固まる前に、あっという間に順番が来てしまった。対応してくれたのは40代半ばくらいのオランダ白人の女性看護師。絵の具みたいに真っ青なアイシャドウを目の下にも塗っていて、寝不足みたいな顔になってしまっていたけど、オランダでは青いアイシャドウが流行っているのかしら(=^・・^;=) ズラッと並んだ他のブースを見ても、看護師さんたちは白人女性が圧倒的に多かった。
「今日はPfizerの日よ!あたしの気分的にもめっちゃPfizer日和!」
と、意味がわからないけど陽気な人で良かった。そう、当日会場に来るまでPfizerとModernaのどちらを打たれるか分からないのである。オランダでは交差接種をしていないハズなので、予約時に2回目もセットで日程を指定されるのは、同じワクチンを保証するためなのだろう。
「そんな緊張しないで。針が細いから痛くないわよ!」
と言うが早いか、いきなり注射器が登場して左肩にブスリ。にゃー(=^><^;=)
まぁ痛かったけど、そんなには痛くなかった。
するとすかさず使用済みの注射器が回収され、新しい注射器がワクチンを充填した状態で運ばれてくる。なるほど、ワクチンを打つ人、使用済み注射器を回収する人、次の注射器を用意する人が、完全に分業しているのだ。同じ作業に集中すればミスを減らせる。
注射が終わったら、その先の空間は15分間の待機会場になっていた。アナフィラキシーショックが起きないか確認するらしい。仕組みを作ってその通りに運用する能力が高いんだなと感じた。
副作用とコロナパスポート
15分待機はしたものの、ワクチン接種の直後にローラーブレードで汗だくで帰宅していいのだろうかと今更思った。でも自転車できている人も多いし、まぁ大丈夫であろう。
僕の場合、一回目のワクチン接種で感じた副作用は眠気だった。そして扁桃腺が腫れているような、風邪のひき始めのような感覚があった。
そして翌朝起きると、注射した左肩が痛い。筋肉痛っぽい痛み。でもこれはワクチンの影響というより、注射針で筋肉が傷ついたのが原因だと思う。いずれにしてもキーボード操作や仕事に影響するレベルではないので、とくに支障なく生活できた。
そしてその一週間後、PCR陰性証明書アプリにコロナパスポート機能が実装された。制度として機能するのは7月1日からなのだけど、このようにDigiDと連携してログインすると自分のワクチン接種履歴が自動的に読み込まれる。
オランダ国内用のQRコード生成には2回の接種、空港や外国で使用するQRコードには1回の接種が必要とのこと。
逆じゃないの(=^・・^;=)?
と思ったけど、とりあえずこれで海外旅行に出かける下準備が整ったことになる。
オランダに移住してから1年半。よーやく、新天地を見て廻れる雰囲気が出来てきた。そろそろ安い飛行機を探そうかな。とりあえず北海道より北にあるオランダも暑くなってきたので、北欧3国のどれかに避暑に行こうと計画している。
夏は北欧、冬は地中海という、移住当初に夢見ていたヨーロッパ生活を手に入れるまで、あと少しだ。