Apple信者だったが棄教してiPhoneどころかスマホ自体を使わなくなった理由

「昨日の夜、何度も電話したのに、お前なんで繋がらないんだよ」

今から5年以上前、シンガポールで会社員をしていた時に受けた、先輩からの苦言である。

何しろプリペイドのSimカードに2か月課金してないからね。それでも着信電話は受けられるはずだけど、機内モードの上、必要ないときはWifiも無効化している。僕にとってスマホとは電子書籍が読める音楽プレイヤーでしかない。だから新しいコンテンツをダウンロードする時以外はインターネットなど不要なのだ。

「仕事で連絡する必要があるから、今後は電話には出るように」

はい、アウト!ここはアメリカ企業なので雇用契約書に業務内容が明確に列挙されている。そこに勤務時間外の対応は含まれていない。しかも個人所有のスマートフォンで仕事の内容をやり取りするのは、コンプライアンス違反でもある。社用電話を支給されていない以上、僕は勤務時間外も対応を求められる人員ではないのである。

「言いたいことはわかったが、連絡がつかずに問題が起きたら、この会社では一発でクビだぞ」

ぜんぜん問題ないっす(=^・・^=)♬ 無職が癖になってるんで、先輩もコンプラ違反で切られたら僕に相談するといいですよ。

「…不便じゃないのか?」

東京でも、シンガポールでも、オランダでも、僕の生活圏なんて、せいぜい渋谷と新宿を合わせたくらいの広さだ。地下鉄とバスの路線図はもちろん頭に入っているし、家のパソコンで住所を調べておけば、地図がなくても迷わず目的地に着ける。返信が遅くて(無くて)文句言う人は僕の友達ではない。Uberタクシーは座席にじっと座ってるのがストレスで、しかも素人運ちゃんとのトークがウザいから乗らない。

電子書籍と音楽とノイキャンイヤホンがあれば、僕の日常生活は問題ないのである。

どうして僕はこんなひねくれ者になってしまったのか。今日はその話をしよう。

スマホとの主従関係が逆転

僕が最初のiPhoneを買ったのは今から10年前、2012年のフィリピンだった。

鬱病になって人生初の本格的な無職になり、Skype英会話の先生を訪ねて灼熱ワンダーランド、セブ島に片道チケットでやってきた。自己都合なので退職金もなく、カネの切れ目が旅の終わりという状況だったにもかかわらず、買ってしまった。

人生初のスマホ、iPhone 4Sである。

独断と偏見であるが、発達障害的な人はミニマリズムにハマりやすく、同時に言動が発達障害っぽいスティーブ ジョブズに惹きつけられる傾向があると僕は思う。そのジョブズがミニマリズムの精神で世に送り出した電話とくれば、財布のひもなどガバガバである。シャッター音がウザいのとキャリアと契約したくないから、それまで日本で購入しなかったのだけど、フィリピンは1次発売国ではないから割高な並行輸入品を買ったことになる。

それでも後悔はなかった。

なにしろiPhone 4Sはジョブズが直接関わった最後のiPhoneなのだ。その 4S でスマホ デビューしたことに、今でも僕はなにやら運命っぽい感情を抱いている。

ところがだ。

ドーパミン注射ともいわれるスマホに、僕はどっぷりハマった。依存したといっていい。

せっかく異国フィリピンにいるのに、頭の中はiPhoneのことばかり。便利なアプリを試したり、ゲームで遊んでいるうちは良かったが、SSHでサーバーに入れるアプリを見つけたことで、なんとiPhoneからポチポチ自宅サーバーをいじってWordPressブログ「退職プータイム」を開設してしまった。記事だってスマホで書いた。

こうなると無敵である。

なにしろブログに載せた広告から微々たる収入を得られる。この調子でスマホでポチポチ生活費を稼げれば、物価の安い東南アジアで働かずにずっと暮らせるんじゃなかろうか。そうすればもう、日本に帰って就職しなくてもいいんじゃないか。

この時の高揚感は鬱病を吹き飛ばすほど鮮烈だった。

それで目を付けたのが外貨取引FXである。折しも2012年は第2次安倍内閣が発足し、アベノミクスを旗印に超円高の是正に取り組んでいた。なにしろ日本政府が円高を是正すると言ってるのである。FXで勝つのは素人でも簡単だった。

いま振り返っても上手くいきすぎだ。当時ピチピチの20代だった僕がどれだけ天狗になったか、想像するのは容易い。

それで自分が鬱病であることを忘れた。

フィリピンの安宿に籠城して、寝る暇も惜しんで経済ニュースとチャートを追いかけるうち、身体が動かなくなった。2回目である。っていうか、たった1か月前にも身体が動かなくなって会社を辞めたんじゃなかったか。それなのに今度はフィリピンで同じことになっている。

バカすぎる。この時は心底自分に絶望した。

わずか1か月で、僕がスマホを使うんではなく、僕がスマホに使われているような、主従関係の逆転が起きてしまったわけだ。この体験以降、スマホの中毒性というか、「本当に大切な今やるべき事」を見失わせるスマホの副作用を強く意識するようになった。

Apple Watchでデジタル デトックス

それでも僕はApple製品が好きだった。

1年後、シンガポールで正社員に返り咲き、収入が安定したこともあって、MacBookAir、MacBookPro、iPod Touch、iPhone SEなど、ほとんどのカテゴリを一通り購入した。必要に迫られてというより、リンゴ教へのお布施である。デザインが良いとか、ミニマリズムが徹底されているとか言っても、結局はそこにジョブズの面影を見ていたのかもしれない。

ジョブズの霊感商法である(=^・・^;=)

でも、スマホというか「どこでもインターネット」状態はメンタルに悪い。

いつでも、どこでも、何でもできると、今、この場所で、本当にやるべき事が見えなくなる。

フィリピンで身に染みた教訓は、その後もちゃんと心に残っていて、シンガポールで手に入れた僕のiPhone SEには余計なアプリを入れず、あくまでも電子書籍が読める音楽プレイヤーだった。Simカードには日本から来客があったり、どうしても通信が必要な時にだけ課金して、普段はWifiだけで生活した。

こうしたスマホとの距離の取り方は、確実に僕の生産性を高めた。

このブログは500記事を超えているのだけど、もしシンガポールで「どこでもインターネット」状態だったら、前提知識として本を読みまくったり、集中して文章を書くことは出来なかっただろう。

こんなオフライン生活が板についてきたころ、Apple Watchが発売された。初代はポンコツ感が否めなかったのだけど、Apple Watch 2になるとiPhoneに依存せずにいろいろできるようになって、音楽プレイヤーとしてなら単体で何とかなると判断した。

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それは正しく、しかもApple Payでキャッシュレス化したことで、財布も断捨離できた。なにしろ日本とシンガポールのクレカに加え、日本に帰国したときはバーチャルSuicaで空港から直接電車に乗れる。Apple Watchさえあれば、世界中どこでも暮らしていける。

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この時のミニマリスト的な高揚感は、iPhone 4Sだけで初めてネット収入を得たときのそれに近いものがあった。

これにより、ポケットには何も入れず、腕にはめたApple Watchとノイキャン ヘッドホンだけで生活する、僕の中で完成形とも言えるミニマリズムに到達した。

なお、シンガポールでは身分証の携帯が法的義務なので、長らく違法状態だったことになる。もう時効だろうが。

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スマホの中身は検閲されている

Apple Watchとノイキャン ヘッドホンだけの生活は、シンガポールで再び職を失い、フリーランスの修行で東南アジアで沈没生活に入り、晴れてオランダに再移住を果たしてからも続いた。なお、オランダでも身分証不携帯は違法らしい。昨日知った(=^・・^;=)

特にAmazonのオーディオブック サービス、AudibleがApple Watchに対応してからは、スマホは電源を切って押し入れにしまい、腕時計だけで本と音楽と支払いを完結できるという、僕的に最強な時期だった。

ところが、2021年の秋に、僕はApple製品と決別することになる。

スマホに児童ポルノを保存していないか、iOS が端末の中を検査する機能が発表されたのだ。しかも検査結果によっては自動で警察に通報するという。

iCloudやGoogleドライブみたいなクラウドストレージに保存すると、違法なデータがないかスキャンされることは知っていた。でも、自分のケータイの中を覗きに来るなんて、児童ポルノを持っていなくても絶対に許せない。

自分の留守中に毎日警察が合鍵で自宅に入り、持ち物検査する法律が施行されたようなものだ。「悪いことしてないなら問題ないでしょう?」とはいかない。基本的人権、プライバシーの侵害であるし、今後端末をスキャンする対象が児童ポルノから拡大されることは既定路線だろう。

「へい!Siriです。カメラと音と臭いのデータから、今あなたが木陰で立小便していると判断し、警察に通報しました。23分前にビールを購入しましたもんね。累犯のため罰金の略式命令が出たので、150ユーロを銀行アプリで強制決済しました。そう、iPhoneならね」

みたいな未来の幕明けである。

テックジャイアントと政府当局の融合という、Microsoft、Google、Facebook が好みそうなディストピアに、Appleはファイティングポーズを取り続けてくれると信じていた。容疑者のiPhoneを暗号解除せよというFBIの要請に、頑として応じなかったAppleを称賛していた。

iPhone 4Sから10年。僕に高揚感を与え続けてくれたAppleは死んだ。それも酷い裏切りを残して死んだ。

結局、世界中の識者による反対声明の結果、児童ポルノのスキャンは「延期」されることになった。でも最新のiOSには該当のコードが実装されており、いつでもスイッチ1つで有効化できると言われている。この辺りも、オープンソースではないiOSの閉鎖性が悪い方向で機能している。

もうApple製品は、持たない、買わない、勧めない。ダメ、ゼッタイ。

Sonyのウォークマンは良いぞ

僕はただ、音楽とオーディオブックをオフラインで聞きたいだけなのだ。電話、Line、SNS、地図、乗換案内、宅配サービス、タクシー配車は、全部いらない。

音楽とオーディオブックだけ利用できて、個人情報を吸い取られない端末はないものか。

残念ながら無いのである。

中華デバイスは論外で、Googleは個人情報を吸い取ってオークションで売りさばいている企業だ。そして残念ながらまともに動くスマホOSを出しているのはGoogleとAppleだけというのが現状である。BlackBerryには是非とも頑張ってほしかったのだが…。

無念。

苦肉の策として僕が選んだのが、Sonyのウォークマン「NW-A100」である。

NW-A100はAndroid搭載なのだけど、AndroidはGoogleにログインしなくても普通に使える。アプリもPlay Storeをコマンドから無効化して、APKファイルを開発元から直接ダウンロードすれば、Googleに特定されない。なにしろSpotifyとAudibleだけでいいのだ。

NW-A100にはカメラもスピーカーも搭載されていないし、当然Simカードも入らない。Androidの動作要件を満たすためにGPSが実装されているので殺し、Google製の標準アプリも adb コマンドで無効化した。

あとはランチャーの検索窓を消して機内モードで使うだけだ。

決済アプリを使えないのでリアル財布をポケットに復活させる必要があったけど、電池がなくなっても買い物できるし、外出時に故障しても電車に乗れるのは安心だ。Apple Watchだけ持って外出していた時代は、いつも頭の片隅で電池の心配をしていたことに気づかされた。

昔のiPhoneは今でも電源を切った状態で押入れの中にある。

オランダの税務署や政府システムにログインする際に必要なのと、コロナ渦ではワクチンパスポートの提示に使ったけど、まぁ最近では電源を入れるのは数か月に1回というところか。

というわけでApple信者だった僕は、ジョブズの霊感商法で10年間にわたり壺を購入してきたけど、2021年に棄教に成功し、いまではiPhoneどころかスマホ自体をほとんど使わなくなった。

それで全く問題ない。音楽とオーディオブックをオフラインで聞ければ僕は幸福だし、いま、この場所で、本当にやるべき事に集中して、高い生産性を保てるのである。