3年前の今頃、フリーランスとして欧州の物価に耐えられるだろうという手応えを得て、オランダ移住計画を実行に移した。
オランダに移住する手順で、一番最初の関門が家探しである。
まだ居住するビザがないのはもちろん、物理的に日本にいるにもかかわらず、インターネット越しにオランダの家を借りる手続きに入るのだ。マジで大丈夫なんだろうか。さすがに不安だったのをよく覚えている(=^・・^;=)
それで予算は少しオーバーしたものの「運河沿い」という希望に合った物件が見つかったので、今住んでいる家に決めた。実は運河ではなく、ゴミが浮きまくりのドブ池の一部であることが、移住してからガッツリ判明するんだが…。
まぁ何にしても、学生時代にバックパッカーとしてゲルマン言語圏をウロウロしていたため、ロッテルダム駅前が中華街であることは覚えていた。きっと中華系オランダ人が固まって住んでいるに違いない。
ならばシンガポールで培った対人関係のノウハウが役立つだろう。完全に孤立することはないだろう。
そんなアヤフヤな期待で不安を吹き飛ばし、何だかんだ今でも住んでるこの街とご縁ができたのだった。
まさかのイスラム
ところがどっこい実際に住んでみたら、日常的に遊ぶ友達はイスラム教徒の移民ばかり。
決して中華系オランダ人が付き合い難いとかじゃなく、イスラム圏である主にモロッコ系とトルコ系の移民および末裔たちの包容力が半端ないのだ。
「ニーハオ!え、日本人なの?まじか。偶然じゃん、俺っちトヨタ車乗ってんの。暇?今から一緒に筋トレするぞ!」
彼らの人間どおしの距離感はデフォでこんなノリで、まぁ何も考えず、とりあえず異物を取り込んでみたいっぽい。「レアポケモンが来たぞ」という噂が広がり、実際に黄色いライオンは希少種であることも相まって、意味わからんくらいいろんな人からお誘いを受けた。
もちろん、そのほとんどが顔を見たら挨拶する程度の「知り合い」に落ち着いていくのだけど、中には本当に僕のことを気に入ってくれて、毎週一緒に筋トレしたり、週末に大人の社会科見学に出かけるような「友達」が数人残ってくれた。
こういうと、日本人的には時節柄、それって宗教の勧誘なんじゃないの?と思うかもしれない。実際に少し仲良くなると、イスラム教徒の定番である「神様を信じているか」的な質問は必ず飛んでくるし、イスラムの壺はまだ登場してないけど、僕自身、宗教勧誘が目的の半分くらいなんだろうなと思っていた。
でも僕は無宗教過激派で、なおかつ唯物論者である。
つまり、肉体も、魂も、愛情も、運命も、すべては化学反応の連鎖で、宇宙の過去と未来は量子物理の方程式で決まると考えている。もし万物を司る存在が神様とするなら、それは超弦理論であろう。
こんなふうに僕の考え方はガチガチ科学なので、敬虔なイスラム教徒と話が合うハズがない。
そう思っていたんだけど、ところがどっこい。彼らは人生観や世界観について議論したいのであって、一方的に自分の考え方を押し付ける意図は(それほど)ないっぽい。
たとえば「人生の意味とは」みたいな中二病全開なお題目が出される。酒が一滴も入ってないのに、真正面からこういう話題になるのはある意味ですごい。禁酒して一生を全うできるなんて、きっと腸内細菌として酵母を飼ってるに違いない(=^・・^;=)
この問い「人生の意味とは」に対して僕が「人間の一生に意味はない」と唯物論者的に即答すると、「でもお前だっていつか嫁さんもらって子供もうけて幸福になりたいと思ってるんだろう?」みたいに返ってくる。
そこですかさず「いや、すでに幸福は自分ひとりでゲットした」と追い打ちをかけると、「ふぁぁwww」と一同大盛り上がり。自分や周囲の人間とは全く異なる価値観に触れた瞬間、彼らの黒い瞳はめっちゃキラキラしている。
街でレアポケモンを見つけた小学生のように。
↑ちなみにこの本は滅茶苦茶面白かったので、宗教的な人生観や世界観を論破したい人にはお勧めである(=^・・^=)♬
記念日は資本主義の毒
イスラム教徒ってなんか面倒くさい人たちだな、と思ったかもしれない。
だけど僕自身がそうとう面倒くさい人間であり、こういう中二病満開の哲学談義がけっこう好きなのである。酒がないと流石に疲れるけど。そんなわけでモロッコ系やトルコ系のイスラム教徒たちとは、何だかんだ1年以上、仲良くしている。
彼らの良いところ(面倒くさくないところ)は、記念日を全く重視しない点だ。
まぁお互いの誕生日をいちいち確認しないのは、ヒゲもじゃガチムチ兄貴なら普通だろう。バレンタイン、ハロウィン、クリスマスを完全無視なのも、イスラム教徒なら当然だ。でもオランダ全土がお祭り騒ぎになる王様の日とか、街全体が花火大会と化す正月も、まったく意に介していない。
素晴らしい(=^・・^=)!
僕は記念日や季節のイベントが大嫌いである。
なんでかわからないけど、時間の感覚がぶっ壊れてるんだよね。昨日、今日、明日、明後日の4日間くらいしか意識できず、だから週、月、年の概念を希薄にしか認知していない。もちろん、カレンダーを見て考えれば理解できるけど、感覚として意識できない。
きっと普通の人は7日ごとに円環する時間を生きているのだろうけど、僕は1日前と2日後までしか見通せない霧に包まれた直線の時間を生きている。
こんな風に時間の感覚が直線だと、毎年の誕生日とされる日は、僕が生まれた38年前のその日とは何の関係もなくなる。新年も「勝手に決めやがって馬鹿野郎」くらいなもんだし、クリスマスなんて売れ残りケーキの特売日だ。
だから季節のイベント事に同じように関わらない集団がいることに驚いたし、仲間を見つけたようで嬉しかった。
なんで(=^・・^=)?
筋トレ仲間の中で一番イスラム色が薄く、いつも論理的で知的な話し方をするモロッコ大学生氏に、中華資本のラーメンをすすりながら聞いてみた。
「だって俺たちに関係ないじゃん。移民の末裔にオランダ国王は関係ないし、新年の花火はうるさいし煙いし。招待されてないパーティーみたいなもんかな」
なるほど(=^・・^=)!移民として疎外感みたいなのを感じる?
「疎外感?ないない。例えば…あの隣のテーブル、ワイワイ楽しそうじゃん。でも別に俺たちは疎外されてない。彼らとは関係ないのさ」
さすが知的な大学生氏だ。さらに彼は続ける。
「あと個人的には、過剰な商業主義を感じる(they are too much commercialism)」
おおお、そうそう、なんか祭りに参加してなんか買えって圧力あるよね。パーティーチケットを買わないと仲間外れだぞ、みたいな(=^・・^#=)
「俺は無駄だと思う」
わかるわー。クリスマスが終わってモミの生木が山と捨てられてたり、王様のオレンジグッズが路上に散乱しているのを見ると、ししもんのライオンハートが痛むんですよ(=^・・^;=)
「最近オランダでは新しいイベントが出来て、妊娠した胎児の性別お披露目パーティーをするんだ」
なにそれ(=^・・^=)?
「青と赤のバカでっかいクラッカーが売られてて、妊婦が紐を引いてドドン!ってやるのさ。飛び出した煙が青だったら男の子、赤だったら女の子。あれはクラッカーの製造メーカーが販促のために生み出した記念日だと思うよ」
マジか(=^・・^;=) オランダ的にはレインボーの煙が出るLGBTバズーカ砲もないとポリコレに引っかかるんでない?
「知らんわw 俺が言いたいのは、子供を作るコストがそうやって上がっていく。商業主義が少子化の原因に違いないぜ」
なるほどね。俺らが2人とも未婚で子なしなのも、行き過ぎた資本主義のせいってわけか。あまりにも金がかかり過ぎるイベントは、それほど参加する価値があるかって値踏みしちゃうもんな。
商業主義を無視すれば人生はラクになる
このモロッコ大学生氏には前から一目置いていただけど、物事を観察して深く掘り下げ、それを具体的に表現するところは、時にハッとさせられる。まだ若いのに素晴らしい。
「あと…。奥さんも子供も要らないって君は前に言ってたけどさ」
あぁ、うん(=^・・^=)
「もしお金がかかり過ぎるってのが理由の1つなら、オランダなら大丈夫だ」
マジ?スポーツジムに来てる子持ちの連中、なんか毎日大変そうじゃん。
「そりゃ結婚する相手は選ばなきゃいけない。俺の従兄は派手な女と結婚して、ケツの毛まで抜かれて離婚したよ。でも俺はね、ただ正しく質素に暮らすのが幸福なんだ」
2500円のラーメンすするのは正しく質素なのかよ(=^・・^=)♬
「黙ってろやw 俺は25歳で大学に入るまで宅配の仕事してたじゃん。あんなん誰でも出来る。そういう仕事がオランダにはいっぱいある」
「俺はいつか結婚して子供も欲しいけど、なにもアインシュタインを育てようってんじゃない。普通に近所の学校に通わせれば十分。もし本格的に勉強がしたくなったら、俺みたいにそのタイミングで自力で進学すればいい。オランダならそれができる」
なるほどね。
商業主義に踊らされて、広告や宣伝の通りにイベントを開催するから金がかかるのであって、「婚姻届出して子供を育てる」という本質は福祉の対象ってことだね。商業主義がゴテゴテに飾り付けた「普通の人生」から、本質部分だけを取り出せれば人生はラクになるってか。
的を得た意見だと思う。
けど、そんなミニマル親に育てられる子供目線で考えると、それはぜんぜん幸福じゃないと思う。
周りの子供たちが持ってるオモチャをいつも買ってもらえなかったり、小遣いがもらえず流行りの遊びに参加できないってのは、強烈な疎外感と劣等感を抱えてしまうもんなんだ。まぁ、僕自身のことなんだけども。
貧乏な状態で子供を作って、ただ大人にまで成長さえすればいいってのは、親の身勝手なんじゃないか。子供がある程度成長して、自分の満足できない境遇が親が貧乏なせいなんだって気付いた時、家族に葛藤が生じると思う。
それなら僕としては、ひとりで静かにビール飲んでた方がずっと幸福だわw
「このままだとマジで地獄に落ちるぞ!」